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□56:ごめんね優柔不断で
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冬休みまであと数日を迎えた学校は、それぞれが休みの過ごし方で浮き足立っていた。でも今私は、すずちゃんから衝撃的な相談をされている。


「ストーカーって…」
「そう」
「いつから?」
「気付いたのは2ヶ月くらい前」
「え、そうだったんだ…。ごめん知らなくて……」
「いや、なまえちゃんが謝る事じゃないよ!私も何も言わなかったし」

まさか友達の身にそんな深刻な問題が起こっていたなんて、自分の事ばかり考えていた申し訳なさで一杯になる。
「相手に身に覚えはある?」
「それが、分かんないんだよね…。でも同じ学校の人だって確信はある」
「え…」
「これ、」
すずちゃんが机の上に手紙を置いた。
そこには、赤い字で【放課後理科室で待ってる】と書かれていた。
気持ちの悪さにゾッとした。
「私、行く」
「っ!?だ、ダメ!危ないから!」
「いい加減ウザくって…。毎日家のポストや下駄箱に手紙が入ってるし、直接会って文句言ってやる」
「こういう人は変に刺激させたら何するか分からないよっ。警察と先生にも相談しなきゃ」
「一応警察には相談した。先生には相手の顔を見てから話すよ。だから、」
いつも以上に真剣な表情で私を見つめるすずちゃんに何も言えず、彼女の目を見つめ返す。

「だから、なまえちゃんに協力してほしい」
「協力って?」
「ストーカー野郎が理科室に現れたら誰か先生を呼んで来てほしいの」
「…分かった」
すずちゃんは、ありがとうと言って軽く私の手を握る。そんな彼女の頭を空いてる方の手で優しく撫でた。



***


「…それじゃあなまえちゃん、見つからない様にね」
「了解…」

放課後になって私とすずちゃんは理科室の隣の理科準備室に入った。
ストーカーはまだ、来ていなかったので2人で作戦会議のおさらいをしてから すずちゃんは理科室に移動した。
私は物音を立てない様にその時を待つ。
暫くして廊下から足音が近付いてくるのが聞こえて紛れもなく理科室に来ているのが分かった。私は棚を壁にして身を隠す。出入り口のドアの磨りガラスに誰かの人影が通り過ぎたのが分かった。理科室のドアの開閉の音がして微かにすずちゃんの声が聞こえた。
「アンタがストーカーね!」
「…うん…」
来たっ。早く先生を呼びに行かなきゃ!
バレない様に廊下に出ると職員室に向かう。

「きゃあっ」

瞬間、すずちゃんの悲鳴がした。思わず理科室に駆け込みたい衝動を抑えて走り出す。作戦会議をした時に女の子だけじゃ適わないから何が起きても先生を呼びに行くのが優先だと。
ーお願いお願いお願いっ!!早くしないと…!

「みょうじ?」
「はぁはぁ、やま、ざき、く、…」
「何で、そんな慌てて…」
階段を上って来た山崎君に息も絶え絶えになって返事をする。
「…ごめん!来て!!」
「え?!な、」
早くすずちゃんを助けたい思いで咄嗟に山崎君の腕を掴むと理科室に戻る。



「すずちゃん!!」
勢いよく理科室のドアを開け叫んだ。
が、応答がない。
「すずちゃん?何処?!」
「おい一体どーしたんだよ?」
「……居ない」
「え?」
「すずちゃんが居ない!ストーカーも!」
「高橋?と、ストーカー?」
何故か2人の姿が見当たらない。まさか、誘拐?!最悪な事になってしまった。まだ近くに居るかもしれないと踵を返し理科室から出ようとしたら突然ドアが閉まった。開けようとするもビクともしない。
「あ、開かない」
「は?誰かが外から塞いでんのか?」
山崎君が開けようと試みるもダメだった。怒った山崎君がドアを強く叩く。
「おい!誰だよ!開けろっ」

「悪い!ザキ」
「あ?その声カッチンか?テメーなんのつもりだ!」
「高橋に頼まれたんだわ」
「え?すずちゃんに?」
「なまえちゃん ごめん!アレ嘘!」
「ええぇ!?」
廊下から聞くすずちゃんのカミングアウトに間抜けた声が出る。
「本当ごめん!こうでもしなきゃ、2人話しないから…」
「高橋に聞いたべ?ザキとみょうじさん、付き合ってるフリしてて別れたフリしてから気まずくなってるって」
「だからー強硬手段取りましたー」
「ミチとゲンマまで…っ、さっきの呼び出しはこれか!」
「仲直りするまで出るの禁止な」
「な、」
「俺ら離れた場所に居るから!」
「なまえちゃんファイト」
「す、すずちゃん、待っ」
パタパタと数人の足音が遠ざかって行く。静まり返った理科室で私は隣に立つ山崎君に目線をやると、彼も困った様に私を見た。
「あー…、その………みょうじ」
「………ごめんなさい」
「いやっお前が謝る事じゃなくて!」
「私、もうバスケ部とは関わらないって言った…」
「それ、は…仕方ないし、みょうじを傷付けたから…」
「皆のバスケのやり方は…好きじゃない。でも何か、山崎君達と関わらなくなってずっと…胸がモヤモヤしてて…何か…何か………さみしいなぁって」
一生懸命自分の気持ちを伝える。ああ、語彙力がなくて恥ずかしい。
「俺、もみょうじが近くに居ないのが何か、足りない…。多分アイツらだって、」
「本当?」
「ん?ああ。古橋とか良くシュートミスするし、原も最近大人しい感じだし花宮はウィンターカップ観に行くって言ってるし、瀬戸は良く寝てるし」
「ふふ、瀬戸君はいつも良く寝てるよ」
「そーだな、ハハッ」
相変わらずな瀬戸君のお陰で和んだ。
2人して遠慮気味に笑う。
そして山崎君が優しく私の両肩を掴み真っ直ぐな瞳で見る。心なしか頬が赤い。
「勝手な事言うけど聞いてくれ!俺はまた前みたいにみょうじと関わりたい。…クラスメイトの山崎弘として仲良くしてくれっ」

「…………………はい」
「そっ、そっか!…サンキュ」
勝手な事言ってるのは私だ。それでも彼は私に歩み寄ってくれた。素直に嬉しい。
「あ、じゃあ高橋達待ってるみたいだから一緒に、」
「…一緒に帰ろう?」
「お、おう」
照れ笑いをしてドアを開けた山崎君に続いて理科室を出る。
靴箱の前で待っていてくれたすずちゃん達と合流して固まって歩く。
仲直りした旨を伝えたら、すずちゃんは喜んでいた。山崎君は友達に一人ずつ蹴りを入れてたけど。

私は周りに恵まれている。
もし、自分1人だったら何も言わず行動さえもせずに終わってたと思う。
こんなにも心揺さぶられる気持ちは初めてだ。

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