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□54:さようなら
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誠凛対霧崎第一
ー当日ー。

コート内で練習中の選手達を眺める。
誠凛側のボールが転がって来て、それを花宮君が相手選手に渡していた。

昨日まで私なりに誠凛高校の事を調べてみた。
設立2年目で結果を残しているなんて凄い部だ。しかも監督は花宮君と同じ2年生でしかも女の子。
ベンチに座っている相田リコさんを見る。パッとマネージャーに見えなくもない。
それと桃井さんの好きな人らしい黒子テツヤ君……は、何処だろう?よく分からなかった。
後気になってとうとう今吉さんにメールで木吉鉄平君の事を聞いた時は苦しかった。
木吉君も無冠の五将の1人"鉄心"の異名を持っていて、去年の霧崎との試合で左膝を潰されてしまったと今吉さんに教えてもらった。
誠凛からしたら因縁の相手の筈だ。
今からの対戦に嫌な予感しかしない。

「みょうじさんタオルをくれないか?」
「あ、うん」
古橋君に声を掛けられてタオルを渡す。汗を拭う古橋君と目が合い下に視線を落とした。
それ以上は特に会話もなくタオルをベンチに置いて彼はコート内に戻って行った。
そろそろ試合開始の時間だ。
かつて無い緊張感の中私は両腕を強く抱きしめた。




***
本当に嫌な予感は的中した。

ボロボロに怪我を負った木吉君を見ているのが辛かった。
もう止めてと叫びたくなった。
10分間のインターバルに入り選手達は控え室に移動する。その間私は御手洗に向かう事にした。



「なあ、便所って何処?」
その帰りに男の人に声を掛けられた。
色黒で背が高い。
「此処を左に曲がったら男子トイレです」
「サンキュ。……あー、霧崎の」
私のジャージを見て彼は怪訝な顔を見せた。その瞳に黄瀬君が重なり背中がヒヤリとした。
彼は私のジャージを何秒か見つめた後、短く息を吐く。

「…フツー」
「え?」
それだけ言って歩いて行ってしまった。何が?ジャージが?
よく分からなかったが、私は控え室に戻る為その場を後にした。


10分間のインターバルを終え再び試合が再開した。
しばらく寝ていた瀬戸君が交代してコートに入るもチームプレイを持って誠凛が勝利した時はホッとしてしまった。
花宮君の悔しそうな表情を見せたのが忘れられない。
これで、霧崎のウィンターカップへの道は絶たれた。
私はマネージャーを辞める。
ズボンのポケットに入れていた退部届けを持って控え室の前で皆を待った。



先に出て来たのはやはり花宮君で、全てを悟った様に私の前に立つ。
「それ、渡せ」
掌を出して私が持っている退部届けを見る。他の部員達が控え室から出て来て私と花宮君に不思議そうな視線を送っている。
私はゆっくりと退部届けを両手で前に伸ばして頭を下げた。

「今まで……お世話になりました」

花宮君は、無言のまま退部届けを受け取る。
「なっ、どーいう事だよ?!」
「見たまんまだ。みょうじは今日でマネージャーを辞める」
「なんでっ…!」
「ごめんね、山崎君。もう決めた事だから…。これ以上は…バスケ部とは関わるのやめる、から………」
「…みょうじ」
「しょうがねぇよザキ。なまえチャンが決めたんなら」
「…っ、くそっ……!」

髪を乱暴に掻いて早足でこの場から去ってしまった山崎君。
そして、花宮君が私を一瞥して背を向けた。
「…お疲れ様、みょうじさん」
一言告げると山崎君が去って行った方向へと歩き出した。
花宮君の後を追う様に他の皆も動き出す。原君は風船ガムを膨らましながらヒラヒラと手を振った。
瀬戸君は気だるげに溜息を吐いた。
古橋君は最後まで私を見つめていた。

皆の後ろ姿を眺めていたが段々と視界がボヤけて上手く見えない。

「霧崎のマネージャーさん?」
「………っ、」
「え?ちょ、泣いて?えぇ?」
涙がとめどなく溢れてきて話し掛けてきた相手の焦った態度に慌てて目元を手で覆う。
「す、みませ…!、っう……」
「あぁっ待って!擦ったらダメだって!ハンカチ…ってないし!!ちょ、ストップ!動かないでね?
真ちゃーんっ、真ちゃーーん!!」

ボヤけた視界からオレンジ色が走って行くのが見えた。

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