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□53:決意
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古橋君に告白された。
それを山崎君に聞かれた。
色んな事が短期間で起こり私の頭はキャパオーバーだ。
うっかり自分の事を言いそうになったのは危なかった。言った所で信じないとは思うけど…。
あれから家に帰っても食欲もなく一睡も出来なかった。


眠さを堪えつつ学校までの道程を歩く。休めばいいじゃんとは考えたが元来小心者の為サボる選択肢はなかった。
正門が間近になった辺りからお腹が痛くなって来た。
手をお腹に添えながら歩く。
「なまえちゃん!」
後ろからすずちゃんの呼ぶ声がして振り向くと心配そうな顔をして駆け寄って来てくれた。
「おはよう。すずちゃんも朝練?」
「そうだけど、大丈夫?顔色悪いよ」
「…ちょっと寝不足で」
「…お腹痛いの?」
「平気、」
「じゃないでしょ!保健室行くよ!」
「え、いや、」
「い・く・よ!」
手を握られ半ば強引に保健室に連れて行かれた。



***

「朝早いし、まだ保健の先生居ないから他の先生に伝えといたよ」
「ありがとう。ごめんね すずちゃんも朝練行って来て?」
「さっき部長に事情をメールで言ったから大丈夫だよ」

保健室に着いて早々ベッドに寝かされた私。
そのベッドのふちに腰掛けるすずちゃんはスマホを器用に操作し終えるとポケットに閉まった。
「ザキにもメールしといたよー」
「重ねがさねすみません」
「なまえちゃんさ、やっぱり何かあったでしょ?」
「え」
「私の目はごまかせないぞっ。何?恋の悩み?」
「……ううぅうん!」
「うっそ。図星?恋なの?LOVEなの?!」
思いっきり動揺して否定したお陰で誤解を生んでしまった。
すずちゃんの瞳がキランキランしている。
「や、違う違う。LOVEじゃないから」
「ザキに告られた?!」
「告られてないって。…何で山崎君?」
「んー?何となく?ってごめんね!具合悪いのに話し込んじゃって!私もう行くからしっかり寝てなさいよー」
「あ、うん」
掛け布団を軽く叩くとすずちゃんは、また来るねと告げて保健室から出て行く。1人になった私は天井を仰ぎ見て目を瞑った。
寝てない為すぐに睡魔がやって来てそこで意識を手放した。





「ーーー……じゃーー……がいね」
「ーーー……わかりました」


近くで誰かの話す声に意識が戻って行く。…先生かな…?
目を覚ましてカーテン越しに1人の影が見えた。
「先生?」
私の呼びかけに反応した人影がベッドの方に近付いて来たので上体を起こして髪を手早く整えてると、数十cm開いたカーテンから花宮君が姿を現す。

「は、花宮、君」

真顔のままこちらを見て何も言わない。
「…あ、部活、」
「もう終わったけど?」
「だよね…。ごめんなさい…」
「体調悪いまま部活に来て倒れたら良い迷惑だろ。お前のダチに感謝しとくんだな」
「そうだね…後でお礼言っとく」
「……ふはっ。本当は体調崩すくらい部活に行きたくないくせに、どんだけ真面目なんだよ お前」
「…ちが、」
「違わねえだろ?」

全てを見透かされてる様な花宮君の眼に言葉が詰まり下唇を噛む。
「別に嫌なら辞めてもいいんだぜ?側でイイ子ちゃんぶられても反吐が出るからな」
「……………なんで?」
「あ?」
「何であんな試合するの?皆頑張ってるのに、皆、必死で勝つ為に頑張ってるのに…!」
花宮君の言葉にあの時の泉真館との試合がフラッシュバックされ思わず言いたかった事が口から出ていた。
朝練も合宿も登山も頑張ってたのは、ウィンターカップで優勝する為じゃなかったの?
他にも言いたい事はあるのに上手く言葉が出てこない。そんな私を鼻を鳴らし花宮君は嘲笑う。

「人の不幸はミツの味って言うだろ?
俺は試合に勝つよりも相手が惨めに負ける姿を見るのが好きなんだよ!傑作過ぎるからな」
「……っ、さい、てい」
「何とでも?だから真面目でイイ子ちゃんなみょうじさんには、酷かなぁ?」
いつもの優等生な笑顔を見せる花宮君の姿に嫌悪感しか湧かない。
こんな人だったなんて。

「それじゃ、体調戻らないなら早退でもする?先生に言っとくよ?」
「…………ったら、」
「…何?」

「…ウィンターカップまではマネージャー続ける…。終わったら、辞めます……」

「…どーぞ、御自由に」

勝っても負けてもマネージャーを辞める。
それ以降は、もうバスケ部とは関わるのやめよう。
私はそう決心した。


誠凛高校との試合は明後日ーー。

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