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□52:焦がれないで
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いつもと変わらない学校生活。
一つ変わった事は、私と彼らの関係性。
マネージャー業はちゃんとこなしているが、部員の間に壁を作った。
必要最低限の会話はあるもののそれ以上は関わらない。
すずちゃんに最近ザキと喋らないねと聞かれたので、別れた事になってるから距離を取ってるんだと答えた。
ふいに山崎君と目が合いすぐに逸らした。……大人げないだろうか。
1度感じてしまった嫌悪感の所為でまともに皆の顔を見れない。
あの日の試合と批判的な視線や言葉、黄瀬君の姿を思い出される。
私は知らなかったのにあんな事言われる筋合いはないと何処かで反論したかったが、相手からしたらそんなの関係ない訳で。
私は霧崎第一のバスケ部マネージャーなのだから結局は私も同じ。
またもうすぐウィンターカップ決勝リーグ試合が始まる。次は誠凛高校が対戦相手だ。
正直もう観たくないし行きたくない。
さらに言えばマネージャー辞めたい。
……逃げだしたい。




***

当たり障りなく部活動が終了して私は体育館の鍵を返して1人で正門に進む。
ひとつの影が動いて私の前に現れたのは、
「みょうじさん」

「……古橋君」

前に1度だけ私を待って一緒に帰ってくれた時の様に古橋君が立っていた。

「送らせてくれないか?」
「うん……」
「ありがとう。行こうか」
私は2、3歩程彼の後ろを歩く。
辺りには静寂と遠くで色んな喧騒が響いている。
早く着かないかなと考えていた。
ピタッと古橋君が立ち止まり私の方へと振り返った。
「なに?」
「…俺達の事が嫌になったか?」
「……」
「マネージャー辞めたくなったか?」
「そ、れは、」
「最近のみょうじさんを見てれば分かる」
「…皆の試合観たらちょっと、」
「だが、あれが俺達のやり方だ。否定はしない。花宮の指示に逆らう気もない」
「そっか…」
古橋君の毅然とした様な態度にそれ以上言葉が出てこなかった。
「正直、みょうじさんにはマネージャーを辞めて欲しくないと思ってる」
「え…」
何故そんな事を言うの?
そう思った言葉を飲み込む。
「…マネージャーが居ないと困るから?」
古橋君の足元に視線を落としながら問い掛けると、彼が私の方へと近付いて来たので顔を上げて古橋君の瞳と目が合う。

「俺の勝手な願いだ」
「古橋君?」
「前にみょうじさんに聞きたい事があると言ったの覚えてる?」
「聞きたい事……」
目線をさまよわせ、そういえば前に部室に古橋君がタオルを取りに来た時に言っていたけど途中で原君が来て結局後回しになっていたな…。
「原君が来て最後まで言えなかった事だよね?」
「ああ。」
「それで聞きたい事って、」
「みょうじさんは、ザキの事好きか?」
「山崎君?え、と…好き、だよ」
「異性として?」
「…ううん、友達として」

言葉にして言うと私は、まだ完全に彼らを嫌いになっていないのが改めて分かった。
「俺はみょうじさんが、好きだ」

「え」

「…好きなんだ」
「あ、ありがとう」
「異性として」
「っ!?」
友達としての好意だと思った後の突然の告白に戸惑った。
胸の鼓動が徐々に早くなり顔は熱くなる。
「え、え?」
「悪い。今こんな事言うタイミングではないかもしれない。みょうじさんがもしマネージャーを辞めてしまったら他に接点がなくなると思ったら気持ちを抑えきれなくなってしまった」
「な、何で…」
「一目惚れだと思う」
堪らなくなって口元を手で覆う。
「たまたま学校内で見た時、みょうじさんが転入して来た日だ。名前もすぐに覚えた。バスケ部のマネージャーとして現れた時は嬉しかったし、ザキと付き合う話になった時は嫌な気持ちだった。みょうじさんとの会話も触れた時も緊張して仕方なかった」
「うそ……」
「嘘じゃない。俺はあまり顔に出ないから分かりにくいかもしれないが本当だ。…今も、緊張している」
そう言った古橋君の表情は確かに分かりにくい。
でも真摯な態度に本当なんだと感じた。
「気持ちは嬉しいけど、私は…ごめんなさい……!」
「ー!待ってくれっ」
堪らなくなって古橋君から逃げる形で走り去ろうとしたら、手首を掴まれてしまった。
「みょうじさん…」
「…いきなり一目惚れとか。…ラフプレーとか。…色々、頭が…」
上手く言葉が出てこない。掴まれた手首が熱い。
「……みょうじさ、」

「古橋!!」

突然、大きな声で古橋君の名を呼ぶ人物が私の前方に居た。

「山崎君…」

「お前何してんだよ!手ぇ離せっ」
山崎君は大股で私と古橋君の間まで来ると彼の腕を掴んだ。
「…悪かった」
古橋君は一言そう言うと手を離した。
「いや、俺も別に聞くつもりじゃなくて」
「…私帰るね」
「あ、おい」
「私は違うから、…私だって皆が思ってる様な人間じゃないから…本当は」

ーー17歳じゃないからーー


「ごめんなさい」
「みょうじ!」

目頭が熱くなって、ぎゅっと目を瞑り走り出した。
私は関わっちゃいけなかったんじゃないか?此処に居ちゃいけない存在じゃないのか?







元の世界に還りたい…。

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