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□51:彼らのバスケ
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「卑怯…?すまないなイミがわからない。フエは鳴っていなかったしルールを破った覚えはない」
「だから嬉しいに決まってんじゃん。頭ん中ババロアでも詰まってんじゃないですか?」


「どいつもこいつもイイ子ちゃんばっかりで虫唾が走っちまったくらいだ」


頭の中が真っ白になった。
泉真館に勝って喜ぶべきなのにちっとも嬉しくない。
相手の選手が怪我を負ったのは、紛れもなく……。

「行くぞ」

花宮君が先頭を切ってコートの外に出る。
私も何とか身体を動かして荷物を持って部員達の後を追う。
「…卑怯者」
泉真館の選手側から微かに聞こえた言葉に下唇を噛む。非難の視線を背中に浴びながら控え室の方へと向かった。


控え室へと歩き進む間、私は皆の背中を見ていた。いつもいつも見ていた皆の背中が遠くに感じる。
あんな試合じゃなければ勝った事に喜んで労いの言葉を掛けていたんだろう。
部員達が控え室に入って着替え終わる間、さっき座ったソファに腰掛けた。

「こんにちは」

頭上から声がして俯いていた顔を上げると可愛い女の子が微笑みながら私を見ている。
「こ、んにちは」
私の反応にまた微笑むと隣に座って来た。
「初めまして。私、桐皇学園男子バスケ部マネージャーの桃井さつきです」
「桐皇?」
「はい。あなたは霧崎第一高校男子バスケ部マネージャーのみょうじなまえさんですよね?」
「そうですけ、ど…あ!今吉さんが言ってたマネージャーさんですか」
「そうでーす」

す、凄いピンクちゃんだな。高校生とは思えない色気のあるピンクちゃんだ。
自然と胸に目がいってしまうのは不可抗力だ。
「試合勝ちましたね。おめでとうございます」
「……ありがとうございます」
「みょうじさんは、彼らのプレイスタイル初めて観たんですね?」
「はい…」
「花宮さんの異名聞きましたよね?」
「今吉さんの言っていた悪童の意味が何となく分かった気がします…。あの、ここには今吉さんも来てるんですか?」
「いいえ。今日は私だけです」
「そうですか…」
「…次の対戦相手の誠凛ですが」
「…?」
「私の好きな人が出るので応援しに行きます」
「好きな人の?」
「はい。その時は今吉さんも来るので楽しみにしてて下さい」
ニコニコしながら桃井さんは自分の好きな人の事を語る。
あえて何も深く言わないのはこのコの優しさなのだろうか。

「桃っちー!」
「あ、きーちゃん」
桃井さんをニックネームで呼び近づいて来る彼に見覚えがある。
「…キセリョだ」

「もー。話の途中で急に走って行くからビックリしたじゃないっスかぁ」
「ゴメンね〜」
「あれ?君は霧崎第一の関係者?」
キセリョと目が合い小さく頭を下げた。
「マネージャーのみょうじなまえさんだよ」
「どっかで会った気がするんスよね〜」
「前にサイン会で、」
「あ!俺のファンのコっスか?」
「いえ、友達の付き添いで」
「ウィンターカップ予選お互いに頑張ろうって言った人っスよね?」
「覚えてたんですね…」
「そりゃあ、あんな事サイン会で言われたら記憶に残るっスよ!」
「そっか……」
何だか今更あんな事言ったのが恥ずかしくなった。
お互い頑張ろうなんて。
「ところで桃っち、緑間っちが外に歩いて行くのが見えたっスよ」
「本当?じゃあ会いに行こうっか」
「多分自販機の方っスよ」
「ふふ、ミドリンは買う物決まってるもんねー。それじゃあ、みょうじさん また会いましょうね」
「はい。…また」
桃井さんが立ち上がり鼻歌交じりで歩き出すとキセリョもその方向へと身体の向きを変える。ふと、私の顔を見たのでもう一度頭を下げる。

「…霧崎は汚いっスね。でも誠凛は強いから油断しない様にあの無冠の五将の一人に伝えといて下さいね」

キセリョ…黄瀬君の目がスッと細まり冷たいオーラが流れた。
私は思わず目を見開いて彼の冷たい瞳を見つめる。

「きーちゃん早く〜!」
数メートル先から桃井さんが黄瀬君を呼んだ。瞬間いつもの輝いてるキセリョに戻り笑顔になった。
「みょうじさん達も次の試合頑張って下さいっス」
手を軽く振って桃井さんの所に歩き出した彼に何も言葉を返せず、自分の足元をしばらく眺めていた。


控え室の扉が開き最初に出て来たのは花宮君だった。座ってる私を見ている。
「お前も帰る準備して来いよ」
「………うん」
返事をすると出入り口に向かって行ってしまった。
次々に部員達が出て来て、原君が私の所に来た。
「なまえチャン元気ないねー。疲れた?」
「ちょっとね…」
「大丈夫ー?おんぶしてあげよっか?」
「…へーき」
いつもの調子の原君に多少戸惑う。わざとなのか無意識なのか。
「みょうじ…帰る準備ここで待ってるから、」
「いいっ!先に帰ってて!」
山崎君が来て言い終える前に表情が見えない様にして控え室に駆け込んで扉を閉めた。







ーー私は初めて心の底から皆を嫌悪したーー

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