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□50:試合開始
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「…なまえ。今日部活の試合、」
「ヤバい怒られる」
「と、とりあえず連絡しときなさい」
「うん……」
私はスマホを取り出しメール画面を開く。宛先は花宮君。
初めてのメールがこんなんとか最悪過ぎる。
事細かく遅れる理由を打っていく。ああ…指が震える。

文章を打ち終え送信ボタンを押した。

ーー数分後、メール受信の音が鳴り花宮君からの返信に恐る恐るタップした。
【何時間遅れる】
「……お父さん、何時間かかる?」
「2時間くらいだな」
往復で4時間、会場まで行く事考えたら5時間だな…。
【最低5時間遅れます】


【今日はもう来なくていい】
心臓がチクリとした。
もう来なくていいって拒絶の言葉が頭に響く。そのまま動けずにいるとメールが新たに届いた。
山崎君だ。

【花宮から聞いた。みょうじが来る頃には試合も終わってると思うし気にすんな。気を付けて戻って来いよ!】
「……山崎君」
またメールが来た。古橋君だ。

【事情は分かった。試合は勝つから大丈夫だ】
「……古橋君」
今度は2件メールが来た。原君と瀬戸君からだった。

【お土産ヨロ(^0^)/】
【迷子になんないで】
「……はは」
緊張感ないな。
私はそれぞれに返事をして、また、花宮君にも謝罪のメールを送った。



2時間後、お父さんに交通費を貰い戻りの電車に乗った。
途中で山崎君からメールが届き予選通過した報告を受けて素直に喜んだ。






***
ウィンターカップ予選決勝リーグ当日。

朝練と同じ時間帯に学校に着いてタオルやドリンクの粉等の準備を済ませた。会場には現地集合なので皆より早めに行くつもりで急いで向かう。


会場に着いた時あまりのデカさに口が半開きになってしまった。
辺りを見回すとチラホラと人が集まりだして他校のジャージや制服、一般の人達でだんだん溢れて来た。
その中に秀徳のジャージが目に入った。東の王者と呼ばれるバスケ部。今日の対戦相手だ。
…何か見た事ある人物が居る。
緑の頭の彼を見つめる。
「みょうじ!」
名前を呼ばれ緑の彼から目線を外し振り返ると山崎君が片手を顔の横に挙げて近づいて来る。花宮君、原君、古橋君、瀬戸君それと他の部員達。
「おはよう。今日も頑張ろうね」
「ん…」
締まりの無い返事に緊張してるのかな?と思う。
「行くぞ」
花宮君の言葉に皆が会場に入る。私もその後ろに続いた。

割り当てられた控え室に入ろうとしたら何故か花宮君達は通り過ぎる。
「花宮君?控え室ここだよ」
「あ?俺達は試合に出ねぇよ」
「え?」
「秀徳は2軍に任せる。俺達の相手は誠凛だ」
そう言って歩き出して行く。
他の皆も無言で花宮君の後方を歩く。
訳が分からぬまま、私は2軍の皆の分のドリンクを作る事にした。


試合の合図が鳴り秀徳との対戦が始まった。
でも、素人の私から見ても実力の差は明らかだ。霧崎も点は取るものの秀徳の圧勝だった。相手校もあまり喜んでいる様子は感じられなかった。
観客席に顔を上げると花宮君達が座っているのを見つける。誠凛の試合を観ている様だ。秀徳より誠凛を重要視しているみたいだけど、それは秀徳に失礼なんじゃないかな。モヤッとした気持ちのままコートから出る。

部員達が着替える為、私は廊下の隅に立って待ってると花宮君達が戻って来た。
「……おかえりなさい」
「ただいまーなまえチャン。出迎えてくれたの?ウレシー」
「試合、負けちゃった…」
「知ってる知ってる。次に勝てば問題ないっしょ」
「でも、」
「ごちゃごちゃうるせぇよ。」
花宮君が私の言葉を切り捨て控え室の中に入った。
いつもより口数の少ない山崎君も他の皆も控え室に姿を消す。
…別にごちゃごちゃ言ってないし…。
はぁ、とため息を吐き近くのベンチに座った。
その横を秀徳の人達が通る。霧崎ジャージを着ている私をチラリと見下ろす。緑の彼と目が合い咄嗟に頭を下げた。彼は何も反応せずにそのまま通り過ぎた。その後ろ姿を見ていると隣のワンレン黒髪の人と蜂蜜色の髪の人に気付き、本屋の出来事を思い出した。
あの時の人達だったんだ。
遠ざかって行くオレンジのジャージを眺めていると霧崎の皆が控え室から出て来た。
私は立ち上がり皆の所に駆け寄る。
第二試合は泉真館との試合だ。次の試合場所と控え室まで移動をする。
「先に行ってろ。後で追い付く」
「うぃー」
「分かった」
花宮君が別方向に向かって何処かに行ってしまった。

しばらくして花宮君が戻って来た。
私はドリンクやタオルを第二コート側のベンチ近くに置いて、その場から練習している風景を見ていた。
隣の第一コートには、秀徳と誠凛が居た。誠凛のバスケ部は花宮君が重要視するくらい強いのかな?気になる。
でも、霧崎の対戦相手の泉真館は西の王者と言われる強豪校。両手を握って勝利を祈る。

試合開始のブザーが鳴った。

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