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□46:多分それは…〜山崎side〜
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いつもの練習より山道はキツい。
徐々に脚が上がらなくなって来た。
みょうじをおぶる番がきても大丈夫だろうかと不安がよぎる。
2つ目のチェックポイントで水分補給をして息を整える。

「おいザキ」
「ん?」
小声で原が耳打ちするから顔を寄せて何だよと聞く。
「ヤベーわ、なまえチャン。お前ヤベーよ」
「は?んだよ原。意味わかんねー」
「とりあえず汗臭くて嫌われない様にねん」
それだけ言って離れていった。
みょうじを見ると花宮と先生と話していたから首にかけていたタオルで汗を拭いた。



「よろしくね山崎君」
「おう」
申し訳なさそうに彼女がそう言って、俺の背中に身体を預ける。

……思えばこんなに女子に密着されるのは初めてである。
ふとみょうじの匂いが鼻を掠め、合宿の時のシャンプーの香りと同じ匂いにドキドキした。
「あ、汗臭くて悪い」
「大丈夫だよ」
「落ちない様に気を付けるからお前もしっかり掴まってろよ」
「了解です」
走り始める時、みょうじの両手が俺の肩を強く掴んだ。
「っうひゃ」
思わず声が出てしまった。
「あ、ごめん!肩弱い?」
「…ちょっとな。こしょばゆい」
「じゃあ、なるべく触らない様にするよ」
「いや逆に危ねえだろ。手を首んとこに回してくれれば平気だから」
「うん、わかった。………これでいい?」

「…………………ぉ、ぅ」

逆にこっちがヤバかった。

さっきよりみょうじと俺との密着度が上がってしまった。
いや、俺だって男じゃん?異性に興味ないって訳じゃねえじゃん?
でも原みたいに女慣れしてる訳じゃねえじゃん?背中から感じる何か柔らか……って違う!練習に集中しろ俺!今はアレだっ、女子をおぶってるから変にドキドキするんだ!べべ別にみょうじだからって訳じゃなくて、これが高橋でも女子だったら誰にも……………いや高橋はねーわ。うん。アイツは女じゃねえだろ。よし、スライムだと思え。今おぶってるのはキングスライムだ。

頭の中でキングスライムを復唱する。
何とか落ち着いてきたっぽい。

「山崎君危ない!」
「うひゃっ!」
落ち着いてきた所でみょうじに肩を掴まれ思わず走る脚が止まってしまった。足下を見ると木の根っこが地面から出て足を引っ掛ける寸前だった。
「あっぶねー、もう少しで転ぶとこだったわ」
「気を付けて。また危なかったら肩掴むから」
「いや、言えばよくね?」
「何々 ザキロボの操縦士?ウケる」
「ウケねーよ」
「ボーッとしながら走んじゃねぇよヤマ」
「ボーッとしてねえよっ。キングスライムの事考えてたんだよ!」
「はあ?」
「何ゲームの事考えながら走ってんだよ、バカか」
「うっせぇ!」
くっそ。
余計な事言わなきゃ良かったぜ。
蔑んだ目で俺を見て再び走るメンバーに後悔のため息を吐きながら俺も走り出す。
しょーがねえだろ、キングスライムでも考えないと心臓がうるせえんだから。てか、古橋と瀬戸とか何も思わない訳?女子だぞ!ムッツリ共め。
……待てよ。アイツ等みょうじをおぶった時………。

あのとき原の言ったヤベーの意味が分かった。
…とりあえず原ぶん殴る。

「山崎君」
「っ?!な、何だ?!俺はヤバくないからよ!」
「うん?…さっきの事なんだけど」
「さっき?!」
「キングスライム可愛いよね」
「え、」
「小ちゃいスライム達が集まってキングスライムになってるって思うと可愛い」

的外れな発言につい可笑しくなって笑いが溢れそうになった。
「そうだな!」
俺はまた目線を前に戻し練習に集中した。
キングスライムより

みょうじの方が可愛いぞ。









……………………ん?可愛い?

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