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□45:私は憧れてはない
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険しい山道を走り抜ける部員達。

上級者コースなだけあって、かなりキツイと思う。
皆顔に伝う汗も気にせず走る走る。


「古橋そろそろ交代だ」
「………ああ」
「あ、次俺だ。やりー♪」
「お前は10分追加な」
「あはっ。マジで?サイコー」
「…みょうじさん、大丈夫か?」
古橋君の問いかけに上手く反応出来ない。今現在 私は古橋君におんぶされた体勢で身体を強張らせていた。
花宮君が言った良い思いをさせてやるとは、部員に私をおぶらせて山頂まで交代で走るものだった。
良い思いじゃない、罰ゲームだ。
「降ろすぞ?」
「…うん」
古橋君がゆっくりしゃがみ込み私を降ろしやすくしてくれた。やだイケメン、じゃなくて。
「ごめんね」
「何が?」
「いや、何か色々と」
「気にするな」
そう言われても気にするよ。次は原君か…。
チラリと原君を見ると思わず一歩引いてしまった。

「……何故脱ぐ」
「直でなまえチャンを感じたいから?」
「セクハラ!いぃいから!服着て!服!」
「声上ずっちゃって可愛いー」
「早く服着ろっ!変態が!」
「っ痛」
原君の頭を叩いた山崎君が原君の服を投げる。
「えー、だって汗臭いじゃん」
「大丈夫だから早く服着てくれません?」
「あ、なまえチャンが敬語になったから着るわ」

残念と呟くその表情は、とても残念そうには見えなかった。
私は項垂れながら原君の方へと向かう。
「はいどうぞ♪」
「…お願いします」
しゃがみ込む原君の肩に手を乗せると原君が振り向いた。

「お姫様抱っこでもいいけど?」
「遠慮します」

ぶはっ即答ーと笑ってまた前を向く。
「なまえチャンそんなに身体固いとバランス取れない」
「あ、ごめん。…これでいい?」
「う〜ん、バッチシ!」
「おら行くぞ」
花宮君の合図で皆はまた走り始める。
古橋君の時にも思ったが何でこんなに余裕そうに走るの。
私は落ちない様に肩を少しばかし強く握った。
頭を無にして時が過ぎるのを待っていると、ねぇと原君が話しかけてきた。
「ラストスパートかけてもいい?」
「原君が大丈夫なら私は構わないよ」
「んじゃ お言葉に甘えて」

「ーーえ、ちょ」
待ってと言う言葉が出る前に原君が上半身を低くして走るスピードを上げる。私はバランスを崩さない様に目を強く瞑り必死に原君にしがみつく。


「ゴーール♪」

原君の声にパッと目を開けた。
いつの間にか私は彼の首回りに両腕を回しかなり密着していた様で思わず離れる。
「え〜離れなくてもいいのに」
「お、降りるからっ、ごめん離して」
やってしまった感が頭を支配する。
しゃがみ込んだ原君から急いで降りた。
これがまだ続くのかと思うと頭が痛い。
「おい早く次行け」
花宮君が睨みながら私に命令する。
次は……
「次は俺ね」

3人目は瀬戸君らしい。

「ね、早くしてくれない?いい加減慣れたでしょ」

慣れねえよ。

瀬戸君におぶさり彼が立ち上がった時、高っと思った。
「あー、男よりは軽いから安心したわー」
「…そう」
「今イラッとした?」
「してないから早く走って!」
「はいはい」
瀬戸君は短く笑うと先に走り出した皆の後に続いた。

瀬戸君は原君みたいにラストスパートをかける事もなく古橋君みたいに一定のペースで走り続け、2つ目のチェックポイントに着いた。
すずちゃんや他の生徒はまだ来てないと先生が驚いていた。
「みょうじさん怪我でもしたの?」
瀬戸君におぶられながら来た私に先生が心配そうに確認する。
「違いますよ。僕達練習も兼ねて自分達に負荷を掛けて走りながら登ってるんです。だからマネージャーの彼女に手伝ってもらってるんですよ」
「そうなの?でも無理しないでね?」
「はい。ありがとうございます」
これでもかってくらいの優等生スマイルで花宮君は先生を納得させると私にも優しい笑顔を向ける。

「さあ、みょうじさん。次はヤマと交代だよ」

「はーい……」

頑張ってねと応援する先生を背に山崎君におぶられる。
山崎君に内心安心感を覚える。
次の花宮君に備えて今から精神力を高めておこう。

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