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□39:悪童
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もうすぐ文化祭も終盤に差し掛かりチラホラと帰る人も増えて来た。
私は1人で目的もなくブラブラと校内を歩く。
すずちゃんは妹が来たとかで行きたい場所の案内を強請られ渋っていたが、私が行って来なよと促したら申し訳なさそうに謝られた。
何だかんだで お姉ちゃんしてる様だ。良いなぁ、姉妹って。
山崎君からはメールが来ていたが
まだ一緒に居たすずちゃんが女の子同士のデートの邪魔するなとメールしたらしく、それから連絡が来ない。

山崎君にメールしようかとも思ったが、友達と遊んでたら逆に迷惑かなと思い やめた。
原君は…女の子と一緒だろう。
瀬戸君は何処かで寝てるだろうし、花宮君は論外だ。そもそも連絡先知らない。
部員の1年生のクラスにも顔は出した。沢君が劇を当番の関係で観れなくて残念がっていたが。
色々考えながら歩いていたら外のピロティにまで出ていた。
折角なのでベンチに座って休憩する。

「あ」
「は、」
私の座った場所に手があり
あろう事かお尻を乗せてしまった。最悪である。

「すみません!」
「いや、別にええけど。こっちこそすまんなぁ」
眼鏡を掛けた糸目の男の人に頭を下げて謝ると関西弁で返事が返って来た。新鮮な響きだ。

「いやいや、私がちゃんと確認しなかったのが悪いので」
「取り敢えず、はよ座り」
「あ、はい」
ポンポンと空いてる場所を叩き座る様に促されては断れない。
半ば虚取りながら隣に座った。

と、何故か見つめられる。
やめて怖いから。

「……何でしょう?」
「自分、劇に出とったみょうじなまえちゃんやろ?」
「え、は、い」
「男子バスケのマネージャーやな?」
「え、何で知ってるんですか?」
「ワシんとこのマネージャー情報や」

何そのマネージャーさん。
「…って事はバスケ部ですか?」
ニコリと笑い手を出す。
「桐皇学園男子バスケ部3年の今吉翔一。一応主将やっとる」

よろしゅうと握手をされた。
何故、ここに。
「可愛い後輩の晴れ舞台を観に来たんや」
私の心を読んだかの様に霧崎に来た理由を話す。
「花宮君、ですか?」
「そうや、オモロイもんが観れたわ」
喉を鳴らして笑う今吉さん。わざわざ観に来るとは仲が良いんだな。
「ようお嬢ちゃんみたいなコが霧崎のマネージャーになったなぁ」
「え?」
「バスケ部の評判もの凄い悪いで」

「…どういう事ですか?」
「あ、花宮の異名知っとる?」
「異名、ですか」
「無冠の五将の1人"悪童"や」
「悪童……」

何て物騒な。
「花宮君って一体どんなバスケを、」

「何であんたが此処に居るんだよ」
今吉さんの眼鏡の奥の目がピクリと動いた。開いてないけど。
その視線の先にはとても嫌そうに眉を顰めている花宮君が立っていた。
「よおー!花宮、劇おもろかったで」
「ちっ!…観てたのかよ」
「みょうじさんが丁度此処に座って来たからな話してたんや。な?」
「はあ」
私に同意を求めて来たので一応肯定する。

あ、待って花宮君が怖い。何で怒ってるの?今吉さんと仲良い訳じゃないの?
「さて、花宮とも逢えたしワシは帰るわ」
「とっとと帰って下さいよ」
「ちょっと花宮君、先輩に対してその態度はダメだよ?」
「は?」

………睨むな!

「おいおいマネージャーいじめんなや。嫌われるで?」
「あなたには関係ないんで」
「クっ、ほなな〜みょうじさん WCで逢おうや」
「あ、はい」
今吉さんは片手を挙げて校門へと歩いて行った。
桐皇か 詳しく調べてみよ。

「…苦手なんだよ あの人」
「え?」
「お前もあの人には気を付けろ」
「…あー、うん」
花宮君にも苦手とかあるんだ。意外。大統領にさえ下剋上しそうなのに。
「お前今、失礼な事考えなかったか?」
「……さ、そろそろ文化祭も終わるね。教室帰ろ」
「誤魔化してんじゃねぇよっ」

するとアナウンスが流れて文化祭の終了を告げる。
花宮君はまた舌打ちをして校内に入って姿を消した。

悪童の事聞いたら教えてくれるだろうか?いや、無視されるかもな。
ポケットのスマホが震えた。
すずちゃんかな?
手を入れてスマホを出そうとしたら1枚の小さな紙切れが入っていた。え?
見ると、電話番号とアドレスが書かれており最後に今吉翔一と記されていた。
いつの間にっ。
でも、今吉さんだったら色々教えてくれるかもな。
紙切れをまたポケットにしまい、すずちゃんからのメールに返事を返し 教室に戻った。

文化祭もやっと終わる。

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