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□37:新選組と平成女子
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50分という長いような短いような時間内で物語は進んでいく。

いよいよクライマックスを迎える。

「まさか、お前がこの世界の人間じゃないとはな」
「ご、ごめんなさい」
「…戻りたいか?」
「わたし…戻りたくない」
「本当に戻れなくても構わないんだな?」
「はい」
「ふ、良かった。これで心置きなく お前に好きだと伝えられる」
「ーっ!土方さん」

『きゃあああぁっ!!』
『ヒュー♪いいぞー!』

また観客席から黄色い悲鳴と冷やかしが届く。
いい加減慣れてしまったが。
照明が一瞬暗転してナレーションが流れる間に急いで着物から制服に早着替えを済ませる。
スムーズに着替えられて良かった。
ナレーションが終わり次の場面では土方に手を引っ張られながら最初に出会った神社に辿り着くという流れだ。

「土方さん、一体どうして…」
「…近藤さんに死なれ、総司も病に倒れ、他の仲間も居なくなった」
「はい……」
「この時代で生き抜くのはどれだけ大変か…お前だけは平和な日々を…」
「土方さん?」
「元の世界へ戻れ、なまえ」
「え、」
「ーおいっ!なまえをこの世界に連れて来たお偉いさんよぉ、頼むから彼女を元の世界へ帰してやってくれ!」
「っ!?嫌!土方さん!私は土方さんと一緒に居る!」
土方の腕を掴む。
すると照明が点滅する。
「それが、そなたの願いか?」
「!!……ああ」
「嫌だ!土方さん!!」
「承知した。彼女を元の世界に帰そう」
赤と青の照明が交互に点滅してドラムロールの音が鳴り響く。

「嫌だ、なんで?」
「未来で待っとけ」
徐々に距離が出来ていく2人。
「土方さーん!!」
ヒロインの叫ぶ声と共に舞台は暗転。
地面に倒れる。

しばらくして起き上がると土方の姿は何処にもなかった。
元の世界に戻ったのだと確信したヒロインは悲しみに打ちひしがれる。
「ふ…う、…ひじ、かた…さん……」
肩を震わせ涙を流す。

悲しげなBGMが流れる中暗転。
ナレーションで数ヶ月後と言う中照明が点き再び舞台に立つヒロイン。

「最近、歴史の成績が良いって先生に褒められるなー。次のテストも期待できそう」
ふと空を見上げる。
「…会いたいなぁ、あの人に」

小さくため息を落とし頬を軽く叩く。
「いつまでも落ち込んでちゃダメだ!頑張れ自分っ」


「未来で待っとけって言わなかったか?」

「え………?」
振り向くと制服姿の男子が舞台に現れる。
「あなたは?」
「…土方歳三」
「え」
「転生したんだよ」
「う、そ…本当に?」
「ああ。なまえ、待たせたな」
そう微笑んで手を差し伸べる。
「っ、土方さん!」
抱き合う2人。

『きゃあああぁっ!!』
飛び交う黄色い悲鳴。

お互いに向き合い見つめ合う。
「今度は絶対にお前を離さない。愛しているなまえ」
「私も愛してます」
2人の距離が少しずつ近づき、唇が触れる瞬間 舞台は暗転して幕が閉じる。
観客席は今も騒がしい。


…………終わった。
舞台の幕が完全に閉じて花宮君から直ぐさま離れた。
「何 安心しきった顔してんだバァカ」
「だ、だって無事に終わったから、」
大役を果たせたという気持ちのせいか安堵してその場にへたり込みそうになる。
他の皆が舞台に出て来て拍手を送る。
「おつかれさまー!!細かい事はまた後にして急いで撤収ー!!次のステージに間に合わせてー!!」
演出家だった男子の一声で慌ただしく舞台から出て行く。
出演者用の通路を通って校内へと向かう。
後はまた文化祭が終わるまでフリーだ。
「なまえちゃん おつかれー」
「お疲れさま!すずちゃん」
「ラスト良かったー。マジでキスしてる様に見えたよ」
「演じてる身としては、そう見えたのなら何より?」
「ドキドキした?」
「…練習でもしてたから慣れた」
近くで見る花宮君の顔は確かにキレイで最初はドキドキしてしまったけど、多分私にしか見えてないあの見下す様なバカにした様な目を見てしまえば違う意味のドキドキしかしない。

「後は古橋君と一緒に写メって着替えようね!」
「あ、うん。じゃあ古橋君にメールするね」
私は衣装袋に入れたスマホを出して古橋君にメールを送った。

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