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□36:始まりの音が聞こえる
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「花宮がそろそろ戻って来いだってさ」

山崎君が携帯を開き画面を見て私とすずちゃんに知らせる。
….もうそんな時間か。
「ザキんトコの劇楽しみ♪」
「俺は出ねえけどな。教室戻ろうぜ」
「そうだねー」
「うん、」
少しだけ足取りが重くなった気がした。
「絶対観に行く〜」
原君がヒラヒラと手を振り私達を見送って別れた。


***

教室に戻るとクラスメイト達が集合しておりザワザワとしていた。
「全員揃った所で各自役割について下さい。今日は頑張ろう!」
『おーーーっ!!』
花宮君の喝に皆で掛け声を上げてテンションを高める。
私と他の出演組は衣装袋を持って体育館へと向かった。

制服の下に着物に着替える時に他の人に見られても良いように白地のタンクトップと黒地のハーフパンツを履く。
後は早着替えをクリアすれば問題ナシだ。
既に私の心臓はドクドクと大きく脈をうっている。
「大丈夫?顔色悪くない?」
「…ああ、沖田総司様ステキ」
「うん。意外に余裕があるね」
「待ってごめん、全然余裕ない」
着替えを終えたすずちゃんに背中をさすってもらい、ゆっくり深呼吸をする。
「舞台裏に行こっか?」
「そうだね」
「台詞飛んだらフォローお願いします」
「任せな」
「沖田総司に恋をした」
「おいおい!相手は土方歳三さんだぞ」
「ですよねー」



***

幕の閉まっている舞台上では大道具係の山崎君を始め他の大道具係の生徒達が最初の場面のセットをしていた。
舞台の外側では劇を観に来た人達の雑談する声が聞こえてくる。

【後5分で劇が始まります。静かにしてお待ち下さい】

アナウンスが流れ次第に静かになっていく体育館。
私はもう一度深呼吸をした。
すると軽く肩を叩かれ後ろに顔だけ向ける。
「みょうじ、落ち着け。お前なら大丈夫だ。なっ!」
ニカっといつも通りの笑顔を見せて私を励ます山崎君に小さく頷く。
「ありがとう。頑張る」
「おう!」

【ビーーーーーーッ】
【只今より2年2組によります劇、新選組と平成女子 を開演致します。】

拍手の中、舞台の幕が上がる。
最初の場面は私1人での演技だ。



「もー、歴史のテスト最悪…。お母さんに怒られちゃう」

とある小さな神社の敷地で項垂れるヒロインの女の子。

名前は、《みょうじなまえ》

…………何で本名かって?
演出家の男子と台本を書いた女子達が、リアル感を感じるからと言うからだ。恥ずかしくて仕方ない。

「歴史なんて覚えるより誰か素敵な人と出会いたいなー」
神社の鈴を鳴らし手を叩く。
「神様これから良い出会いが訪れます様に!」
すると照明が点滅する。
「な、なに?!」
「私はこの神社に祀られている神だ。その願い叶えてしんぜよう」
「きゃーーーっ」
暗転して次の場面に変わる。
私は地面に倒れてる状態だ。

「確か此方から叫び声が聞こえた様な…あれは?!土方さーん!」
バタバタと走って来たのは沖田総司。その後から現れたのは土方歳三と斎藤一。

『きゃああっ、カッコイイ!!』
観客席から黄色い声が上がった。

「総司どうした?」
「女の子が倒れてるんですけど」
「何…?」
うつ伏せになった私に警戒しながら近づく3人。
「少し珍妙な格好をしているな」
「見た所怪我とかしてる感じはしませんね。土方さんどうします?」
「どうするも何も起こせばいい」
土方にそう言われ沖田は地面に膝をつき私の身体を揺する。
「ねえ!君、起きて!おーい」
「……………」
「起きませんね」
「チッ。仕方ねえ、屯所に運ぶぞ」
「え、良いんですか?素性も分からない人間を屯所に連れて行っても」
「例え、このまま放って近藤さんに報告したら怒鳴られて また連れて来いって言われるのがオチだろ。はじめ!総司!手伝え」
「承知」
「はいはい…」
倒れてる私を優しく起こし土方の背に乗せる。
4人とも舞台からハケる。
暗転して屯所内のセットを始める。
ナレーションが入り、ヒロインは目覚めるが未来から来たとは言えず記憶喪失を装う事にして分かるのは名前だけだと告げる。
人の良い近藤勇はしばらく世話をするとヒロインを屯所に招き入れヒロインは家事手伝いをする事になった、という設定だ。

「土方さん、夕食の準備が出来ました」
「ああ」
「それじゃあ失礼します」
土方の部屋を後にして廊下を歩く。
「なまえちゃん、もしかして土方さん苦手?」
「沖田さん…」
「その顔は図星だね」
「苦手と言うか少し怖いなあって」
「あは。あの顔は生まれつきだと思うよー」
「おいこら、総司」
「あれ?聞いてました?土方さん」
「陰口なら俺の居ない時に言え」
「そうします。じゃ、ご飯食べましょう」
「お前後で稽古倍にしてやる」

あれ?何か素が出てる?

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