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□31:多勢に無勢
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「まさか、お前がこの世界の人間じゃないとはな」
「ご、ごめんなさい」
「…戻りたいか?」
「わたし…戻りたくない」
「本当に戻れなくても構わないんだな?」
「はい」
「ふ、良かった。これで心置きなく お前に好きだと伝えられる」
「ー!、ひ
「「きゃああああぁあああっっ!!!」」

「うるせーよ!女子!」
「はーい、カットカット。」

演出係の男子の声に演技を中断する。
今は学園祭に向けて劇の練習中だ。ウチのクラスは話し合いの結果、演劇に決まった。
しかもタイムスリップした女の子が新選組の土方歳三と恋に落ちるラブロマンス物。
ヒロイン役はアミダで何と私に決まってしまった。笑えない。
相手役の土方歳三は、彼氏の山崎君で良いんじゃないのかと騒ぎ始めたが彼じゃ似合わないとか公共の場でいちゃつくなとか反対意見?もあって自薦他薦問わない事にしたら女子の推薦で花宮君が挙げられた。
猫被りな彼の事なので勿論引き受ける。笑えない。
花宮君から愛の台詞が出る度に女子のテンションは上がる一方だ。

「あーん!みょうじさんが羨ましい!」
「台詞でも好きだって言われたい!」
「…じゃあ、誰か代わってください」
「えームリムリ!目の前で失神しちゃう」
「みょうじさんってば花宮君相手に平然としてられるしね〜。やっぱザキが彼氏だし、彼氏の方が良いんだよね!」
「はは、」
乾いた笑いが出た。
彼女達は知らないだろうが見えてない所で罵倒されてますよ…。
何かデジャヴ!

「ねー練習終わったら衣装の寸法測りたいんだけどー」
「あーっじゃぁ今やって」
「オッケー、みょうじさん来て来て!」
衣装係の女子に促されて被服室に向かう。
スリーサイズがバレてしまった。


寸法測りを終えて今度は花宮君の寸法を測りに衣装係の女子達が彼を囲む。くっそ、あの爽やかな笑顔を引っぺがしてやりたい。
ちなみに山崎君は大道具係で すずちゃんは沖田総司役だ。男装似合うと思う。

「みょうじさん ラストのシーンなんだけど、」
「うん?」
「抱きしめ合うだけじゃ、盛り上がらないからキスもしてみよっか」
「キ?!」
「あ、フリだからね。さっき花宮君にも確認とって許可もらったから」
演出係の男子の言葉に恐る恐る花宮君を見る。
「ーー何かな?みょうじさん」
ニッコリと微笑んだ彼が私を見る。

「…何でもないです」

将来ハゲてしまえ!


***


「くそめんどくせぇ」
「…なら猫被り止めれば?」
「バァカ、余計なお世話だ」
部活終了後 花宮君がふと吐き出した一言に劇の練習の事かなと さとり声を掛けたが余計なお世話だった。
「花宮のクラス、劇なんだって?イイね〜なまえチャンとラブシーン」
「うるせーよ」
「劇のタイトルなんてーの?」
「え、と【新選組と平成女子】だよ」
「ブハッ色気ねー」
「笑わないの。原君のクラスは何するの?」
「焼きそば屋さ〜ん。買いに来てねん」
「うん」
「オラ、着替えに行くぞ」
一通り会話が済むと見計らった様に花宮君が原君を連れて体育館を出て行く。
「みょうじ先輩、モップ」
「あ、ありがとう」
わざわざ私の分のモップを持って来てくれた1年生の沢君にお礼を言って モップ掛けに取り掛かる。
「みょうじ先輩のクラスの劇観に行きますね!」
「え、いいよ。恥ずかしいから!」
「どんな話か気になるし楽しみです!」
「えー…」
照れた様に笑う沢君にこれ以上観に来るなとは言えなかった。可愛いって罪。

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