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□30:なぜかは分からない
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あの練習試合の一件以来、山崎君がいつも以上に私の傍に居るようになった気がする。

朝練も移動教室も昼休みも部活帰りも。
いい加減ウザいと辛辣な一言を放つ すずちゃんにもめげずに。

「山崎君、過保護過ぎるよ」
「また灰崎のヤローが現れたらどうする!」
「いや、流石にそれはないでしょ。彼 静岡だし」
「いーや!みょうじは危機感なさ過ぎっ。油断してっと背後から刺されるかもしんねーぞ」
「…危険レベル上がった」

そもそも刺されそうなのは灰崎君では。
そんな思考を巡らせてると前方から古橋君が歩いて来る。
「よお 古橋」
「ああ、こんにちはみょうじさん」
「こんにちは」
「俺は無視なんだな。図書室?」
「そうだ」
右手に持っていた本を見せて答える。少しだけ廊下の端に寄ると2人も一緒に移動する。
「古橋君も花宮君も読書するの好きだよね」
「俺 無理。活字見ただけで眠くなる」
「お前はな」

古橋君でも本を読んで感動したりするのかな?
そんな事を考えていると、ザキーとクラスの男子達が山崎君を呼ぶ。
「あー?」
「モンハンやろうぜ。レアな奴手に入れたんだよ」
「おっ、マジかよ。やるやる!」
山崎君は誘われるまま男子達の方へ行ってしまった。
彼の頭はモンハンでいっぱいになったらしい。
何か10代の男の子って感じだなと少し微笑ましく思ってると、視線を感じて その主である古橋君を見上げる。
「あ、呼び止めちゃってごめんね。図書室行ってらっしゃい」
「……みょうじさんは本に興味ある?」

「うん 好きだよ」
面白い本であれば読むのは苦ではない。前にハリポタ読破したし。

「そう、好きか」
「何かお勧めあったら教えて?」
「……分かった」

頷いた古橋君の口角が 少し、ほんの少しだけ上がったのを私は見逃さなかった。
「じゃあ楽しみにしてる」
「ああ。それならアドレス交換しないか?良いのがあったら その都度知らせる」
「いいよ」
ポケットからスマホを取りだしてお互いのアドレスを交換して 古橋君は図書室に向かった。
しかし さっきの古橋君はレア過ぎる。写真撮りたいくらい。

「みょうじ 悪い!つい夢中になっちまった」
「大丈夫だから遊んでていいのに」
「いや、こっちが先約だし」
…約束してたっけ?

「私もレアな物手に入れたよ」
「え、みょうじも やってんの?」
「そっちじゃなくてね、古橋君の笑顔」
「は?古橋の笑顔が?」
「うん、私からしたらレアだもん」
「ふーん…」
何処となくつまらなそうな態度の山崎君。
ゲームの話じゃなかったからかな?
「私は行くから山崎君も友達と遊んでおいでよ」
「俺はみょうじと行くし」

「…女子トイレに?」
「じょっ?!」
いきなり大声を出した為 廊下に居た生徒達が私達を見た。
山崎君は慌てて自分の口を手で抑える。
他の生徒達も何もないと分かると私達から視線を外した。

「さ、先に言えよっ」
「だって教室出た途端に着いてくるんだもん」
「…俺、モンハンしてくる!」
耳まで赤くしたまま山崎君は、さっきの男子達の元へ戻って行った。

結局、私の尿意も引っ込んでしまったけれど。

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