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□15:聞いてもいい?
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ぼんやりと意識が覚めつつある。
目を閉じているが明るさを感じる。アラームが鳴るまでまだ寝ていようかなと朦朧とした頭で思う。

「うわあああっ!!」

突然の叫び声に目を開く。何事?!
「みょうじが潰れたっ…!」
声の主は山崎君で訳の分からない事を口走る。
「朝っぱらからうるせーよ!みょうじなら居んだろうが」
花宮君の投げた枕が見事に山崎君の顔にヒットする。
は?え?と間の抜けた声を発しながら私を見つけ 何でこっちに?と目が訴えてる。
騒ぎに起きた原君が欠伸をしながらモゾモゾと起き上がる。
「お前がなまえチャンの寝込み襲うから避難したんだからな」
「は??俺が??」
いや、ちょっと誤解だ。少し合ってる部分もあるけど。
「大丈夫だよ山崎君。襲ったと言うか、寝相で私の布団に転がって来ただけだから」
「え、マジで?悪りい…」
布団の上に正座に座り直して本当に申し訳なさそうに謝る。
「あ大丈夫だから!気にしないでよ」
「もう、俺の事言えないな〜ザキ」
「ぐっ、」
「バァカ。」
原君と花宮君に責められ項垂れる山崎君。朝から可哀想に。
そんな山崎君の背中を撫でて
着替えを持ってトイレへと向かった。

朝食後の後片付け時、テーブルを布巾で拭いていると花宮君が食堂の入り口からノートパソコンを持って現れた。
「みょうじ」
「はい?」
「お前パソコン打てるか?」
「少しは」
「それじゃあ、これ纏めといてくれる?」
ノートパソコンとノートを突きつけられて布巾をテーブルに置いてそれを受け取る。
「っと、いつまでに終わらせればいいの?」
「今夜中」
一言告げて食堂を出て行く。
仕事をこれ以上増やさないでくれ。


***


空いてる時間は就寝前しかない為ゲンナリしながらパソコンのキーボードを叩く。
何やら色んな高校名が書いてあり選手名や英語の単語や数字やらが載っており それらをパソコンに項目欄に入力していく。
部屋じゃあ集中出来そうにない為食堂を借りた。残業してる気分だ。

やっと全てのデータをパソコンにまとめ終えた頃には 時計は午後22時を指していた。
「ねむ…」
ずっとパソコンを見ていた所為で目が疲れた。テーブルに突っ伏し目を閉じる。

コトっと近くで音が聞こえ頭を上げる。
「お疲れ」
テーブルの向かい側に花宮君がおり私を見下ろしていた。
テーブルにはココアと書かれた缶が置いてあった。
「ごめんなさい 時間かかっちゃった」
「別に」
静かに椅子を引き向かい側に座るとノートパソコンを自分の方に向けて中身を確認する花宮君を見つめる。
「それ飲めば?」
パソコンから視線を外さずココアを勧めてくる。
「うん、ありがとうございます」
缶のタブを開けてココアを飲む。甘くて美味しい。
花宮君がパソコンを見てる間静寂が続く。
缶の表面に付いた水滴を眺めているとパタンとパソコンを閉じる音がして視線を花宮君に移す。
目が合った。
「どう、かな?」
「取り敢えず問題はねえ」
「それは良かった、です」
花宮君はパソコンとノートを持ち立ち上がった。
「それ飲み終わったら部屋に戻れ」
「分かった」
それと、と言葉を続ける。
「みょうじの隣、古橋にしといた。ヤマの提案で」
「そっか」
きっと寝相が原因なんだろう。
食堂を出ようとする花宮君を不意に呼び止めた。
「なに?」
「……ココアありがとう。それと、」
「なんだよ…」
「さん付け辞めたんだ、ね?」

今日は朝から呼び捨てでずっと呼ばれていたので何となく聞いてみた。ほんの好奇心だ。

「ヤマのが移ったんだよ」
そう言って出て行く花宮君を見送り残りのココアをぐっと飲み干した。
呼び捨てだと何だか親しくなった気がして嬉しくなった。
缶を空き缶入れに捨てて部屋に戻ると私の布団の隣に古橋君が寝ていて他の皆から寝息が聞こえていたので静かに布団の中に入る。

明日も早い。

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