main

□10:呼んでみて
1ページ/1ページ

カラオケに入って3時間経過中。私は既に疲れてる。途中から聞き役に徹する事にした。
「なまえチャン もう歌わないの?」
「喉が痛くなったからね」
「もっとなまえチャンの懐メロ特集聴きたかったのに」
ストローの音を立てながらドリンクを飲む原君。
「…原君ってちゃんと視界見えてる?前髪で目が見えないけど」
「見えてる見えてる。なまえチャンの頭のテッペンから足の爪先までぜーんぶ♪ワンピースの丈が短ければもっとサイコー」
「セクハラ」
ニヤニヤしながら曲選びの操作を始める。急に曲が止まった。
「あ!原ァいきなし曲止めんな!」
「だってもう、終わりじゃん」
「たくっ。俺少し休憩」
マイクをテーブルの上に置いてメニュー表を開く。
皆、流れ的に歌うのを一時中断してドリンクを飲んだり頼んだポテトを食べる。
「すずちゃん、後何時間?」
「フリーで入ってるから まだ大丈夫だよ」
スマホを見ると午後3時過ぎで少し小腹が空いてきた。
「お前ら腹減らねえ?唐揚げの盛り合わせ頼むけど?」
「ついでに飲み物も〜」
「同じのでいいよな?みょうじさんは?」
「あ、私も同じので」
「おっけ」
「ありがとう」
山崎君って気が効く。お母さんみたい。
「…うーん」
すずちゃんが唸る。
「どうしたの?」
「ザキさー そのみょうじさんってやめなよ」
「な何でだよ」
「付き合ってる設定なんだから他人行儀すぎる下の名前で呼びなよ」
山崎君の肩をはたく。え 待って私も君付けですけど。
「痛えな!今は夏休みだからいいだろっ」
「バッカ!今から呼んどかないと慣れないでしょーが!」
「そうだぜザキ。俺みたいになまえチャンって最初から呼んどかないと俺が彼氏って勘違いされるぜ?」
「「それはない」」
2人がハモった。
「ほれ、なまえって呼んでみ?」
「〜〜〜、」
みるみる顔が赤くなる山崎君に私まで顔が熱くなる。
「〜、なまえ
「お待たせしました〜。ご注文の唐揚げの盛り合わせとコーラとアイスコーヒーでーす!」

ナイスタイミングで店員が入って来たので山崎君は固まってしまった。ブフッと吹き出す原君。
店員が出て行った後は、頑なに口を閉じて拒否する山崎君に妥協案で、みょうじと呼び捨てにする事に決まった。私は変わらず山崎君だけど。



***

午後5時を過ぎてカラオケを出る事にした。
すずちゃんとは最初に待ち合わせした場所でバイバイした。
いつもの3人で駅まで歩く。
「そーだなまえチャンのアドレス教えてくんない?」
「あ、俺も」
「うん良いよ」
他の通行人の邪魔にならない様に道の端に寄り連絡先を交換する。
「ばっちしだぜ♪なまえチャン。おやすみメールいれるねん」
「返事返さないけど」
「まさかの既読スルー?泣くよ〜」
「勝手に泣いとけ」
「ザキひでー」
けらけらと笑う原君はいつもひょうきんだ。

夜、原君から本当におやすみメールが届いた。スルーはやめてちゃんと返信する。
すると可愛いウサギのスタンプが返された。なにこれ可愛い。


***

翌日の部活終了後、一軍と私だけ残された。
何だろうと考えてると花宮君が口を開く。
「明後日から合宿を行う。
スケジュール表を配るから読んどけよ。集合は時間厳守」
渡された冊子を見るとビッシリと予定が組み込まれていた。
花宮君が作ったのかな。凄い。
「みょうじさん」
花宮君が別の紙を私の前に差し出す。それを受け取るとマネージャー用と書かれていた。
「これは?」
「合宿での作業する事が書いてある」
読むと食事の準備の項目に目が止まる。
「え、食事作るの?」
「バァカ、準備って書いてあんだろ。合宿先にちゃんと飯作る人間は居んだよ。配膳の手伝いだよ」
最近の花宮君は私に対して素が出るのが増えた気がする。
馬鹿にする事が多いけど。

とにかく明後日から合宿だ。
無事に何事もなく進めばいいな。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ