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□4:平凡な人生が1番だよね
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「失礼します…」
小さい声で体育館へと入る。
部活中の為私の声はかき消された。
クスっと花宮君が笑う。
「体育館だから遠慮は要らないよ」
彼の後を追って着いた場所は男子バスケ部部室だった。
中に入ると…何か男子特有な…部活特有な…うん、独特な雰囲気と匂いがした。
「それじゃあ、みょうじさん
さっきの…お願いするよ」
「ああ、はい」
静かに部室のドアを閉めて花宮君は居なくなった。
軽くため息を吐いて気合を入れ直す。
お願いとは、部室の片付けと練習中の部員達のサポート、いわゆるマネージャー業務だ。
何故私に頼んだのか?考えると
あの出来事があったからとしか思えない。多分ね。
事前に渡された紙を見る。
今からする事と部員達に渡すドリンクの作り方が綺麗な字で分かりやすく書いてある。
私は書いてある手順通りに仕事に取り掛かった。



「おっっも、」
ドリンクが入った籠を持って体育館に向かう。
籠の取っ手を掴む自分の腕は重さでピキっと軋む。ちぎれる。
休み休み運びながら何とか体育館の入り口に着いた。
床に置いた籠を持ち上げようとしたら、ヒョイと軽々と籠が宙に浮いた。
「大丈夫か?後は俺が持って行くから」
「山崎君」
良い人が現れた。山崎君マジ神。
「ありがとう…!助かります」
「おう」
あんな重い物を軽々と持つなんて流石は男性である。
半袖の下から見える腕の筋肉が眩しい。
「5分休憩!全員水分補給する様に!」
『はいっ!!』
花宮君の指示に部員達はそれぞれドリンクを籠から取り出し休憩に入る。
私は入り口に立ったままスカートのポケットから紙を出すと
次の作業の確認をした。
飲み終えたボトルの回収をしてもう一度ドリンク作り、部活終了後にボトル洗い、洗ったボトルは所定の位置に戻す。
体育館のモップ掛け、下校前に体育館の施錠、部室の施錠確認後にカギは職員室へ。
居残り練習する部員が居る場合終わるまで待つ事。

「終わるまで待つ事…」
帰れないのか。マネージャー大変。
5分休憩が終了してボトルが籠に返される。
それを確認して小走りで体育館の中に入り籠を回収する。軽い。
またドリンク作りに部室に行く。

スポドリの粉をそれぞれのボトルに入れてる時に部室のドアが開く音がした。
ドアに視線を移すと部員であろう男子が居た。
「マネージャー代理さん俺のボトルにもドリンク入れてー」
彼の手には回収し忘れのボトルが。
「すみません。忘れてしまいました。」
「別にタメなんだから敬語じゃなくていいよ?」
前髪が長くて目元が見えない彼からボトルを受取る。
軽く頭を下げてドリンク作りを再開する。が、例の彼は一向に出て行こうとしない。
「あの、どうしました?」
「ンー?観察」
「はあ」
観察って。
「練習しなくていいんですか?」
「そろそろ戻らないとねん。花宮に怒られちゃう!じゃあネ」
ニヤニヤしながら部室を出て行った。何だあの人。



***

部活が終わり、私はモップ掛けをしていた。
まだ残って練習している部員が居る。終わるまで待たないといけないパターンだ。
取り敢えず使用されてない場所だけモップを掛ける。
「みょうじさん」
花宮君にふいに呼ばれた。
「今日はありがとう。助かったよ」
「うん」
「お礼に何かプレゼントするよ」
「え、いや」
「遠慮しないでよ」
「や、あの」
「何がいい?」
グイグイくる花宮君が怖い。
笑顔だけど怖い。
「….あの事なら誰にも言わない、よ?」
私がそう言った途端
花宮君の顔から笑顔が消えて真顔になった。
「あの事?」
「し、視聴覚室の」
「……ふはっ」
今まで見た事のない笑い方に一瞬目を見開いた。
「バカかアンタ?俺がそんなのに怯むと思ってんの?」
「え、じゃあ何で…」
フッとまた爽やかな笑顔に戻った。
「本音を言えばさ、部活中に雑用を真面目にしてくれる人を探してたんだよ。ずっとマネージャー居なかったから部員達でやってたんだけど、練習に支障出るからね。みょうじさんって見てたら何に対しても言われた事は真面目にしてたから どの道お願いしようかと思ってたんだよね。…まあ
アレは予想外だったけど」
真面目にしてたのは仕事柄そうしないとダメだからだ。あれだ職業病と言うやつ。
「でも私、マネージャーは」
「してもらえないの?」
「…すみません」
「そう、仕方ないね」
やけにアッサリしていて拍子抜けした。脅されるかと思ったから。
「モップ掛け終わったら帰っていいよ。お疲れ様」
「あ、うん。お疲れさま」
やっと終わった!帰れる!と喜ぶべきものの私の頭と心はモヤモヤとスッキリしないままだった。

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