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□73:心は常にブレーキ掛かってる
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私は他校の人に弱い部分を見せるのが好きなのか、イヤそういう訳ではない。
「……年下に頭撫でられて何やってんだろう自分」
「1個しか違わないッスよ。つーか年とか関係なく泣いてる女の子慰めるのは当然ッス」
「泣いてない」
「ハハ、可愛くねー」

周りの目もあるし黄瀬君の手を静かに退かす。
「もう帰らないと遅くなるね。出よっか」
「うッス」

「…みょうじ先輩」

椅子から立ち上がった所で名前を呼ばれ一瞬黄瀬君に呼ばれたと思い彼を見たが黄瀬君は私の後方に目線を向けていた。その目線を辿り後ろを向くと沢君が居た。

「あ、沢君」
「お疲れ様です…」
「お疲れ様。友達と寄り道?」
「あ、はい」

沢君の周りに数人の男女が居て同じくこちらを興味あり気に見ている。
「その人海常の黄瀬涼太、」
「やっぱりキセリョだ!本物!!」
「ヤバい!イケメン!」
一緒に居た女の子達が騒ぎ始めた。
黄瀬君は笑顔で鞄を持ち私の手を掴む。ーーーは?

「他のお客さんに迷惑だから静かにね」
「は、はい!」
「イイコ。じゃ、行こっかみょうじさん」
「…うん?」
「え?あぁあの!みょうじ先輩っ…」
「ま、また明日ね!」
黄瀬君に引っ張られながら店を出た。
沢君焦ってたけど勘違いさせたかもな…。明日誤解解かなければ。
「…黄瀬君ってナチュラルに異性の手とか触るとか大人になったらどんな男になってるんだろう」
「それどう言う意味ッスか〜?」
「ん、まあ、健全な交際を心掛けてね。って事で離してくれる?」
「少しはときめいて欲しいッス」
「セクハラして来る人のお陰で免疫ついちゃった」
「セクハラ?!」
「ああ、そんなに重く受け止めないでね。その内前髪パッツンに切って禊させるかな?」
「…こえ〜」
「……黄瀬君今日は話聞いてくれてありがとうございました」
頭を下げてちゃんとお礼をする。別に解決した訳ではないが、少しだけ胸がスっとした。

「ンー、特に何も言えなかったッスけど少しくらい我儘になっても良いと思うッスよ」
「我儘に……じゃあ一つだけいい?」
「ん?」
「友達に黄瀬君のファンの子が居て、写真撮って下さい」
「…………………」
「あっ…やっぱり我儘すぎるか、ごめんね!忘れてっ」
「ぶはっ!なんスかそれー?我儘ってよりお願い事じゃん!」
吹き出して笑い出す黄瀬君にあれ?我儘と違うの?と焦ってしまった。いや、そんなので笑わなくても。
だけど無邪気な笑顔もイケメンだな。

「はーーっ、笑った〜。恥ずかしいッス」
「いや、恥ずかしいのは逆にこっち、」
「いいッスよ、写真撮っても」
「え?いいの?」
「はい」
中身もイケメンじゃないか。


「あれ?俺1人ッスか?」
「そうだよ」
「みょうじさんは写らないッスか?」
「ファンの子に送るのに私が写ってたら邪魔でしょ。はーい、キセリョスマイルでお願いしまぁす」
「言い方(笑)」
「3・2・1ーーーー。うわ…1発OKだ」
スマホの中の黄瀬君は完璧にキセリョだった。切り替わるのはさすがプロのモデル。

「みょうじさん」

ーーーパシャーー。

「………へ?」
「ツーショット〜」

不意打ちで撮られてしまった。
「いやいやいや、変な顔だったよ削除して?」
「変じゃないッスよ!ホラ」
見せられた写真の自分は呆気に取られた顔をしてる。手前に写る黄瀬君は憎らしい程にイケメンだった。
「それじゃあ俺帰るッス」
「それ削除してから帰って?」
「嫌☆」
「〜〜っ黄瀬君!」
「お疲れッスーーっ」

……帰っちゃったよ!誰だ中身イケメンって言ったの。
いや、私も写真撮らせてもらったしお互い様?

溜め息が溢れて若干ヘコみながら帰宅した。


***

自室で小説を読んでいると沢君からメールが来た。

【お疲れ様です!さっきの黄瀬涼太と一緒に居たのって2人は付き合ってるんですか?】

案の定勘違いしてる。

【お疲れさま。違うよー!付き合ってないから誤解しないでね!】

【そうなんですね!ビックリしました〜。俺の友達にも言っとくんで噂にならない様にします】

【ありがとう。助かるよー】

良い子だ。

【でもあの黄瀬涼太と付き合わないのって年下には興味ないからですか?】

私からしたらほぼ全員年下になるけどね!何て返そうかな…。

【年下とか年上とか気にしないかな。好きになればね】

……我ながらテンプレートな答え。

普通に生活してれば好きになれば年齢や環境は関係ないんだよなー…。

【そうなんですね!!分かりました!じゃあ明日朝練で!おやすみなさい。】

【おやすみなさい】

沢君とのやり取りを終えて、すずちゃんにはサプライズで明日黄瀬君の写真を送ろうと決めた。



***

朝練後の片付け中、沢君が近付いて来て小声で話し掛けてきた。

「先輩、昨日の事友達に説明したんで大丈夫だと思います」
「そっかー、ありがとう」

「なーにコソコソしてんの〜?」

いつの間にか湧いて出た原君が割って入って来る。
「原君忍者になれるんじゃない?」
「どっちかって言うとマフィアがイイかなぁ」
「原、みょうじさんの邪魔をするな」
「おい其処でかたまってると花宮に何か言われるぞ!」
「だってよー、なまえチャンと1年ボーイがナイショ話してるから気になってさぁ。何の話?」
「え?あのー…、」

原君が沢君に聞き出そうと絡んだせいで困ってる。
「原君、世間話してただけなんだからそんなに絡まないであげて?先生に言いつけるよ」
「え〜?先生怖いから言わないで(笑)」
「うん、なら着替えておいで。古橋君山崎君この人連行していいよ」
「…おう」
「…分かった」

2人に連れられて原君達は部室に去って行った。誤魔化せて良かった。
「はぁあ…やっぱ先輩達怖いです…」
「そう?優しい所もあるよ」
「みょうじ先輩にだけですよ」
「そ」
「みょうじさん?1時限目遅刻したいんだったらそのペースでも良いけど、僕に迷惑かかるから5分以内に終わらせてくれないかな………?」

「…………はい」
そんな事ないよと言いたかったが例外も居ると今気付いた。

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