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□72:私も一緒なら良かったのに
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「あれ?」

「どうしたの?」
「今日数学ないよね?」
「え?昨日現国の先生がお休みするから数学に変更ってHRで言ってたじゃん。花宮君が」
「うん、聞いてた。でもやっぱり数学の教科書がないから変更なしになったんだと思われ、」
「忘れたのね」
「……はい」

いつもの流れでいつもの時間割通りに教科書を持って来てしまった。
やってしまった…。
「他のクラスから借りる?」
「…だね。ちょっと行ってくるね」
「わかったー」
1人教室を出て、誰に借りるか悩む。
他クラスの知り合いはバスケ部員しか居ないんだけど。
原君と瀬戸君のクラスを覗けば瀬戸君はアイマスクを着けて寝ており、原君の姿はなかった。瀬戸君起こすのも面倒だなぁ。
「みょうじさん?」
瀬戸君を眺めながら考えてると古橋君と原君が2人で現れた。
「どったの?俺のクラス覗いて。用事?」
「うん、数学の教科書借りようと思って」
「忘れたのか〜。置き勉しとけばイイのに」
「原君不真面目だよ」
「数学なら俺が貸してあげる。ちょっと待っててくれ」
古橋君はそう言うと早足で自分のクラスまで戻って行く。

「ぶっちゃけさー、なまえチャンって古橋の事どう思ってるの?」
「……友達」
「え、それマジで言ってる?」
「マジで言ってる」
「異性として意識してあげないの?」
「友達としては好きだよ。でも異性としては意識出来ないなぁ…」
「ふーん」
「山崎君にも相談してみようかな」
「え?やめた方がいいよ」
「なんで?」
「アイツ恋愛ビギナーだから参考にならないよ。俺が相談乗ってあげる」
「原君エロい事しか言わなそう」
「えー(笑)」

「みょうじさん、数学の教科書持って来た」
「あ、ありがとう、借りるね」
「ああ」
古橋君から教科書を受け取るタイミングでチャイムが鳴り、原君はそのまま教室に入って行き私と古橋君も自分のクラスに戻る。


***

急遽体育館が別件で使用出来なくなり部活は休みになったので山崎君に用事があるからと断りを入れ1人で帰る事にした。
久しぶりに本屋に寄ってゆっくり色々な本を物色しようと思い立ったからだ。いつも利用する本屋に入り文庫や漫画や新刊等を見て回る。
雑誌コーナーを流し見してるとふとある項目に目が止まった。
『これを読めば男心が分かる!』
……いやいや、全ての男の事が分かる訳じゃないし。
『恋する男の心理』
……さ、参考程度に読んでみようか…?
その雑誌を手に取り表紙を眺める。

「男心知って悪巧み?」

背後から声がして振り向くと意外な人物が立っていた。




「……きせ、くん」

「お久しぶりッスねみょうじさん」
「あ、お、久しぶり、」
「はは、そんなビクつかなくてもいーッスよ。桃っちにみょうじさんの事多少は聞かされたし」
「桃井さんに?彼女元気?」
「元気ッスよ。ところでその本は買うんスか?」
「か、買わない買わない、」
「ふーん、好きな人でも居るとか?」
「そうじゃなくてね……」
「もしかして告られた?」
「まあ、そんなとこ」
「それでその本読んで男心の勉強ッスか、好きじゃないなら断ればいいし好きなら付き合えば良いだけじゃないッスかねー」

私が見ていた雑誌をパラパラと捲りながら話す。いや、分かってるけどさ。
「断ったけど、そんな簡単にフェードアウト出来る関係じゃなくてね」
「……告って来た相手はバスケ部ッスか?」
「うん」
「へー、あの霧崎バスケ部も人の感情はあるんスね」
「あ、当たり前ですっ。じゃあ私はこれで失礼します」
軽く頭を下げてその場を離れようとした私を黄瀬君は呼び止める。
「何?」
「折角なんでお茶しません?話聞きたいッス」
キラキラなイケメンスマイルを顔に貼り付けてる彼に花宮君がダブって見えた。


***

黄瀬君の誘いに乗り近くの店に一緒に入り席に着いてココアを注文した。彼も注文し終えると私を見た。
「さて、みょうじさんの話を聞きましょうか!」
「…って言われてもね、こういうデリケートな問題を無関係な人に話すのも、」
「何言ってんスか、無関係だからこそ感情移入なく話聞けるしアドバイスも出来るんじゃないスか」
「黄瀬君は誰かを好きになった事ある?」
「特には」
「え、何か不安…」
「でも男心は分かるッスから」

まあ、話だけならと一応名前は伏せた上で経緯を喋った。



「……は〜、やりますねぇ。そのA君とやら」
「私自身初めての事で」
「本当にみょうじさんはA君を好きになる事はないんスか?」
「ないよ。あっちゃいけない」
「なんで?」
「…私はそんな感情持っちゃ駄目なんだよ。私は、違う、と思う」

自分には皆とは違う人間じゃない気がしてならない。私にはもう一つの別の居場所がある。
自身を消してしまいそうな爆弾を抱えてる気分だ。

「大切なものが増えてしまったら失った時、悲しいもの……」

目頭が熱くなって来て咄嗟にココアを口に流し込んだ。ぬるくなったココアが身体に染み渡る。

「………」
無言で黄瀬君は私の頭を撫でて来た。
優しい笑みを浮かべてそれ以上何も言わずに。

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