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□かっこわるいい
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「高虎!」
日和花の叫ぶ声がこだまする。
頭に響く喧騒は戦そのもので、怒号の中で彼女の声など聞こえる筈もない。
ああ、きっと自分は夢を見ているのだ、早く醒めなくては。高虎はそう自分に言い聞かせ、体を動かそうとした。
しかし何故か力が出ない。高虎の体は動かそうにも全く動かなかった。

自分よ、何をしている、動け、立つのだ、手柄を立てよ、そしてあいつより、彼女より、日和花より…

自分の声がこだまする。目の前は何も無く、ただ闇が広がるだけであった。

****

「お前は馬鹿なんだな、藤堂?」

面目次第も無い。高虎は床につきながら日和花の(怪我人相手とは思えない程乱暴な)看病と、長い説教を受けていた。
そう、あの時高虎は戦場にて倒れたのだ。敵の銃撃を受け、日和花の目の前で。
「面目次第も無い。あの時、足で纏いになった事は謝る。」
高虎は真面目に反省をして日和花に詫びを入れる。戦場では一瞬の油断が命取りである。それを重々承知していたにも関わらず、自分は後方に気を取られて油断をし、怪我を負った。それも死んでいてもおかしくな様な怪我を。
きっと、いや絶対にその場にいた部下や日和花には迷惑をかけただろうし、自分が生きているという事は日和花や誰かが助けてくれたという訳だ。あの苛烈を極めた戦場で、高虎の怪我の処置を行ったという事は相当苦労したという事だ。
高虎は自分は叱られても仕方の無い事をしたと自覚していたし、自分を助けてくれた日和花に最大の感謝をしていた。
「…ちがう。」
「?」
何故かどんどん不機嫌になる日和花に高虎は心配になり、どうかしたのか、と声をかけたが日和花はますます不機嫌になり、とうとうそっぽを向いてしまった。
「まて、小波。一体何に対して怒っている。俺がそんなに嫌なのか?」
「…」
「小波、済まなかった。何度でも謝ろう。許せとは言わん、だが…」
「だから、ちがうと言っているだろうが!」
日和花はいきなり大声を上げると高虎の方へ向き、寝ている高虎の肩をガシッと掴むと、さらに叫んだ。
「お前はいつも自分で死んではならぬと言っているだろう!だったらそれを実行しろ!何が何でも守れ!いいか!?藤堂、私を心配させるな!お前が死んだら、私は…」
日和花の声は段々弱々しくなり、高虎をつかむ手も徐々に引く。見ると、日和花の顔は真っ赤になっていた。
高虎は驚いた。
幾つもの戦場をかけた同士のような存在の日和花。強く凛々しく逞しく、厳しく冷たい筈の彼女が、しおらしく自分の負傷を、不器用なりにも嘆いてくれているのだ。
高虎は今まで日和花の強い部分ばかり見ていたが、日和花はこんなにも健気で優しい、女人なのだと感じた。
高虎はそんな日和花の姿を見て痛む体を動かして彼女を包む様に抱きしめた。
「…なんなのだ…」
「…体が、勝手に…」
三秒程たっただろうか、高虎の腕を日和花は容赦なく叩きつけると(高虎は盛大に痛がった)スタスタと振り向きもせずに歩き、襖を開いた。
「藤堂!治るまでせいぜいそこで謹慎するのだな!まあなんだ…その…馬鹿な藤堂の面倒は、私が見てやる。」
日和花はそれだけ言うと、襖を壊れる様な勢いで閉め、高虎の部屋から出ていった。
「…」
ひとり残された高虎はなんだかよく分からないがとりあえず休もう、そして次の戦では今度こそ日和花より手柄を立てよう。と思い、布団を被った。
先程叩かれた腕がまだ痛む。
高虎はあの馬鹿力…と悪態を付きながら、眠る体制に入った。
「…そういえば…」
その時、高虎はふと、思い出した。
そうだ。あの戦場で意識が遠のく中で、確かに聞こえた。
『高虎!』
普段は苗字で呼ぶ日和花が、確かに己を、高虎、と呼んだのだ。
間違えない。あの声は紛れもなく日和花だった。

高虎は不思議と温かい気持ちになった。
この温かみはなんだ?
そう考えながら高虎は先程あの華奢な体を包んだ腕を眺めていた。

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