OrderDogMurder

□第三部 亀裂と秘密と牆壁と
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部屋に戻るために、階段を登る。
泉は、3段下を黙ってついてくる。
一言も交わさずに、ただひたすらに部屋まで歩く。

ーー気まずい。早く戻りたい。

私の心は、その念にのみ縛られていた。

部屋に着く。
泉はもう2つ向こうだ。
私はとっとと部屋に入ろうとする。
鍵を開け、戸を開いた。

「ごめんな。」

部屋に入ろうとした瞬間に、彼は私の耳元でそう呟き、こちらを見ることなく部屋に戻っていった。

私も部屋に入る。

「なんなんだよ、もう…。」

頭の中で彼の言葉を反芻する。

『ごめんな。』

彼らしい、手短な、それでいて心の底からの、謝罪だった。

「ごめんなんて、私が聞きたいのは、そんな言葉じゃないよ。」

1人、何もない空間に呟く。

安心。

私は、それが欲しい。
いつも死と隣り合わせだった私には程遠かったもの。
だが今は違う。

(真っ当に生きろ。)

ボスがそう言ってくれた。
榊原タツキを守護する。
その仕事が最後の仕事だ。
その後は…。

「…っ、考えても無駄だ。」

今、何を考えたところで状況が変わるわけではない。
ならば、今この瞬間に、身を委ねよう。

そう思いつつ、私は今日携える武器を選ぶ。

「今日はこれかな。」

武器は、さっき整理しておいた。
整然と並べられた多くの武器の中から、3寸の細い鏃を数本取り出し、胸ポケットのケースにしまう。

「あとは…」

私は小型の銃と消音器を取り出し、制服の下に仕込んであるホルダーに納める。予備の銃弾は1ダース持っていこう。
最後に、フォールディングナイフ(折りたたみ式のナイフ)を腕時計のバンドと腕の隙間に仕込む。
腕時計のバンドにホルダーを固定し、そこにナイフを収納する。

「これでよし。」

そう言ったとき、ドアを叩く音が聞こえた。

「ドラゴン先輩!おはようございます!」
ドンドン
「一緒に食堂いきましょう!」
ドンドンドン
「あれー?先輩まだ寝てるんですか?」
ドンドンドンドン
「せーんーぱーいー!行きましょうよー!」
ドンドンドンドンドン

そろそろうるさい。
こいつは朝からうるさいな。

「分かった。今行くよ。」

笑いながら返事をし、クローゼットを閉じた。

ドアを開ける。

「おはようございます!先輩!」
「おはよう、パク。」

レトリーバーのような、人懐こい後輩の、可愛い笑顔に癒されつつ、私達は食堂へ向かった。

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