novel

□あなたの幸せを願う
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あなたの幸せを願う(快新)

快新へお題は『君を諦められない/君を選んであげられなくて、ごめんね/泣いているように笑う儚さに』です。

「あの、新一…好き…です…。」

そうぎこちなく告白されたのが丁度3年前。
あの時のことはよく覚えている。天気、気温、時間、場所。こいつが俺の初恋で、初めてできた恋人だった。


「もう3年かぁ、早いな!」
「よくもまぁ3年も一緒にいて飽きねえよな。」
「新一だもん。」

何言ってんだ?とでも言いたげに首を傾げる。
そんな快斗が可笑しくて少し笑った。

「な、なんで笑うんだよ!?」

笑う俺を見て快斗が慌てる。それを見て俺は更に笑った。

「なんだよもう。」

快斗は拗ねて口を尖らせている。そんな姿がなんだか可愛らしくて、頭を撫でた。

「こ、子供扱いすんなよな!」
「ごめんって。」

手を握って俺をポカポカ叩く。その仕草がますます子供らしくてまた笑いがこぼれる。

あぁ、これからもずっと一緒にいたいな。

ふとそう思う。
もう二人とも二十歳を迎えて、意識し始めていたことがあった。

(結婚…とか…。)

気恥ずかしくてまだ快斗には言えないけど、いつか近いうちにできたらな…。

「新一?ねえ、新一ぃ!」

快斗に呼ばれてハッとする。

「な、なんだ?」
「なんか、考え事してるみたいだったから。悩みでもあるの?」
「いや、別に。」
「ならいいけど…。」

ぼすっと音を立ててソファに寄りかかる。そういう快斗も、なにか言いたげだった。

「そういうおめぇもなんか言いたそうだな?」
「えっ!?いや、あー…はは…。」

視線を逸らしながら適当に誤魔化す。快斗の嘘はいつもバレバレだった。

「んだよ、言いたいことあんなら言えよ。」
「んー…あー…のさ、」
「おう。」
「ずっと、言おうと思ってたんだけど…。」
「なんだよ。」
「その、俺ね、」
「早く言えよ。」
「うん、あの……、


許嫁が…いるんだ…。」


「…は?」

頭が真っ白になる。暫く何も考えられなかった。
い、いいな、ずけ…?
それって…………。

「小さい頃に…親が決めた…。付き合った時に、言うべきだったと思うけど、ど、どうしても勇気がでなくて…もう一緒に…いてくれないんじゃないかって……。」

俯きながら呟くように快斗は言った。身体は少し震えている。

「今まで好きになった人はいたけど、諦めてた。俺には許嫁がいるから勝手に恋しちゃいけないんだって。でも、新一は諦められなかったんだよ。……その結果、新一を傷つけることになってしまったけど。」

申し訳なさそうに快斗は続けた。まだ頭が正常には働かなかったけれど、嬉しさと悲しみが同時に込み上げてきた。

「結婚、いつなんだ…?その、許嫁と。」

「二十歳の…誕生日の予定だったんだけど…誤魔化して、延ばしてもらってる。」

「そ、か…。」

衝撃的すぎて言葉が出てこない。誤魔化しきれなくなってその時が来れば、快斗は別な人と家庭を築いていくのだ。
その事実を理解した途端涙がこぼれてくる。

「新一…っ!」

涙を拭う俺を見て、快斗が驚いたような辛いような声をあげる。
快斗はそのまま抱きしめてくれた。

「ごめんな…記念日にこんな話…。でも、今日で最期だからさ…言わないとって、思って…。」

「…え?」

快斗を見上げその意を問う。
最期…って言ったか…?それってどういう…。

「…誤魔化しきれなくなったんだ、だからせめて今日までって、親に無理言って、飛び出してきた
。今日くらいは、今日は、新一と一緒に居たかったから。」

どこまでも優しいこいつに、愛しさと涙が込み上げてくる。やっぱり好きだ。快斗が。

「離れたくない…。」

そう呟いて俺を強く抱きしめる。それに返すように俺も強く抱きしめた。

「ごめん…ごめんな新一…新一を選んであげられなくて……ごめ…っ…。」

俺の肩に顔を埋めて、快斗は泣き始めた。

「謝んなって…おめぇが悪いわけじゃねえだろ…。」
「…っ…で、でも…ぉ……。」
「おめぇは俺の事なんて忘れて、幸せに暮らせばいい。おめぇが幸せならそれで十分だ。」

半分本心で、半分嘘。自分の心を押し殺して、綺麗な言葉だけ選んだ。

「そんなこと…っ新一、の…っ、ことなんて…忘れられるわけ、ねえ、だろ…っ。」

瞳に涙を溢れさせながら快斗が言う。こんなに取り乱した快斗を見るのは初めてかもしれない。

「ひっでぇ顔…。」

そう言いながら俺は快斗の頬に手を摺り寄せて、その唇に俺の唇をそっと重ねた。

「綺麗な顔が台無しじゃねえか。」

精一杯笑って見せる。それでも、俺の目からも涙が溢れていて、うまく笑えていないのはわかっていた。

「新一だって…。」

首筋に伝う涙を舐めとるように快斗のキスが落ちる。突然の刺激に体が震えた。

「ん…っ。」

思わず声が漏れる。俺はそのままソファに押し倒された。

「新一…このまま、いい?」
「…あぁ。」

愛を確かめ合うように体を重ねる。今までで一番優しくて、幸せだった。










朝、とても天気のいい朝だった。

(…晴れてよかったな。)

何に向けてなのかよくわからない感想を抱く。

俺は昨日の夜纏めておいたキャリーバッグを引きずって家を出た。

「またな、快斗。幸せになれよ。」



俺の声は虚空へと消えた。

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