novel
□Murder dependent
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これは、いつだったか僕が夢に見たもしもの未来。
僕らが殺せんせーを殺して、世界が救われた未来。
殺せんせーのおかげで学力もあがり、300億円を山分けした僕らは、ほとんどが名門校に進んでいった。
「はあっ…間に合った…?」
「やぁ渚くん、おはよ。席とってあるよ」
「カルマくん…おはよう、ありがと」
駆け込み乗車で電車に乗った僕の目の前に、カルマくんが座っていた。僕らは高校は違えどそれなりに近い場所だったので、途中の駅まで一緒に登校していた。
「寝坊?珍しいね」
「うん…昨日勉強長引いちゃって」
「流石、渚くん真面目だね」
「こんな名門校に通ってるカルマくんに言われたくないなぁ、その制服、みんなの憧れだよ」
「名門って言ったって、渚くんとこもかなりの偏差値でしょ?そんな大して違わないと思うけどなぁ」
「そんなことないよ」
毎日こんな他愛もない会話をしながら、毎日が過ぎていく、暗殺とは縁のない生活。去年は、こんなにも物足りないものだと思いもしなかった。
「本当、つまらないよぇ。みんなどうしてるかな」
「杉野はたまに連絡とってるよ、また今度3人で遊びに行こう?」
「いいね、丁度観たい映画あったしさ、…あと、また今度デートしよ」
「か、カルマくん…そういうのは二人きりの時に言ってよ」
僕らは高校入学と同時に交際を始めた。お互いの気持ちは中学の時から確かめあっていたのだけれど、暗殺やらテストやらで大変な時期だったし、高校に入学してからにしようという話になっていた。
「あ、もう着いちゃった…じゃあ、またね」
「ちょっと待って渚くん」
「ん?…っふ…んん…はっ…」
「ん、いってらっしゃい」
カルマくんは人目を忍んでキスをした。全く、もし見られていたらどうするんだ。
「ちょ、人前ではやめってって」
「ほらほら、ドア閉まっちゃうよ?」
「もう…じゃあね」
「うん、いってらっしゃい」
カルマくんはいつもの笑顔を浮かべて見送ってくれた。本当、彼は大胆だ。
いつもの通学路を歩いていると、見覚えのない男女がもめているようだった。周りを歩く人々はチラチラとそちらを見ている。…その時だった。
男の方がナイフを取り出し女性に突き刺した。
女性はその場に崩れ落ちた。人々は悲鳴をあげ、写真を撮る人もいた。きっと以前の僕はこの人達と同じで、驚愕して動くこともできなかっただろう。しかし僕は冷静に携帯を取り出し、先程110番という叫び声が聞こえたので119と文字盤を打った。
…いや、正確には冷静ではなかったのだろう。その光景を目にして浮かんだのは、加害者に対する羨望と、「僕ならもっと上手くやれる」という意欲だった。
この日は臨時休校となった。カルマくんの学校は通常授業らしく、僕は一人で帰ることにした。
(…暗殺、かぁ…)
…ニャア
(…?…あ、猫…)
僕の横を一匹の猫が通りかかった。僕は徐に、常備していたBB弾銃を取り出した。ナンバを駆使しながら背後に近づき、意識の波長に合わせて手を打った。
猫はビクッと身体を震わせ、倒れ込んだ。
その瞬間、首元を狙ってBB弾を放った。
猫の首元から血が流れた。死んでいるかはわからない。
でも確かに、僕は快感を覚えていた。
あぁ、やっとわかった。僕の日常で足りなかったのは、“暗殺”だ。