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□君の声が聞こえるから
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『チャニョラ大丈夫!?』


声が出なくなってしまった俺はとりあえず
病院に連れて行かれ、
その足で今日のスケジュールをこなすメンバーの楽屋へ来ていた。


セフンから喋れなくなったことを聞いて心配してたんだろう。
真っ先にギョンスは俺に駆け寄り、不安そうな顔で俺を見つめた。


『まじで喋れねぇの?』
『チャニョラあーーって言ってあーーー』


チェンベクも駆け寄ってくる。


『マネヒョン、医師なんだって…?』


ミンソギヒョンも心配そうに眉を下げた。


『特に体の異常は見られなかったそうだ。声帯も問題ない。
考えられるとしたら極度にストレスがかかったんじゃないかって。』
『ストレス?チャニョリが!?』
『何かあったのか?』
『…そういえば昨日ギョンスヒョンと喧嘩してた』
『〜〜〜〜!!!(ジョンイナ……!!!)』



余計なこと言ってくれやがって!!
そんな事言ったらギョンスが責任感じちゃうだろーが!!!!


案の定ギョンスは俯いてしまった。
俺は慌ててそんな事は無いとジェスチャーで表現する。



『……ひとまずこの状態だとスケジュールはチャニョリ無しでやるしかない。
みんなフォローしてチャニョリの穴を埋めてほしい』
『『はい』』



ギョンスと話す間もなく俺はすぐに宿舎へと戻され、
絶対安静を命じられた。


『〜〜〜(あーーー)〜〜〜(あーーー)』



何度も何度も、声を出そうと試みた。
でも今まで簡単に出せてたはずのそれは、
でてきてくれなかった。





世間には体調不良と発表し、当面俺はスケジュールから外された。
仕事に穴を開けてしまうのも辛いし、
みんなは休む暇もなく働いてるのに、
俺だけ宿舎にいる事も申し訳ないし耐え難かった。





『ただいまチャニョラ』


深夜、仕事から帰ったギョンスが俺の部屋にやってきた。


おかえり。


声にならずに胸でつかえる。
もう一生声が出せなかったらどうしようと、
1日中悶々としていたけど、
ギョンスの顔を見て少しホッとした。



『……ごめんねチャニョラ』
『?』
『声……僕のせい?』
『〜〜〜っ!!』


《違う!
俺はギョンスとの喧嘩でストレスなんか感じてない!》



ケータイに打ち込んでギョンスに見せる。


《大丈夫!!そのうち戻るって!!》


ギョンスの表情はそれを読んでも
晴れなかった。
でもしばらく俺の目をじっと見つめた後、
ふっと笑顔を見せる。




『…わかった!色々不便だろうから、
宿舎にいる時は僕になんでも言えよな』








『チャニョラー』
『チャニョラ〜〜』
『チャンヨラ〜』
『パクチャニョラ』



それからというもの、
俺がギョンスを呼ばなくなった分、
ギョンスが俺を沢山呼ぶようになった。




『チャニョラー良かったなぁ、ギョンスに尽くしてもらえて。
今までこんなに呼ばれた事なかったんじゃね?』



ベッキョニが俺の肩を叩いて笑った。



『そうそう、可哀想になるくらいシカトされてたもんなぁ?』
『チャニョラもしかしてそれ狙ってた?確信犯だったりして』



ジョンデもミンソギヒョンも俺の頬をつついて笑った。
でも俺は笑えない。


みんな気を使って話しかけてくれるけど、
声が出なくなって3日___
俺は段々不安と苛立ちが増幅してきていた。




ギョンスには“そのうち戻る”なんて気張って言ったけど、
このまま声が出せなかったら、
歌が歌えなかったら、
EXOを抜けなきゃいけない。
そしたら俺はどうやって生きていけばいいんだ。
大好きな音楽と関われないなんて、
どうしていいのかわかんねぇよ。








『ん?あれ?どこ行くんだよ?部屋?』
『おーいチャニョラ!』



もしかして、とポケットのスマホを取り出した。



『……部屋行くからほっといてくれって』
『え』
『チャニョリから』


僕はスマホをかざして見せた。


一昨日よりも昨日、昨日よりも今日と、
チャニョリの元気がなくなってるのがわかる。


声が出ないなんて、考えただけでも辛いんだ。
本人の気持ちはそれ以上だと思う。


ストレスが原因なら、できるだけチャニョリには休んでもらいたい。
でも今の状況じゃ、休まるどころか余計ストレスを感じてるみたいだ。




『アイツが一番辛いよな』



ベッキョニの言葉にみんな黙って目を伏せた。




翌日、練習を終えて真っ先に向かったのはマネヒョンの所。



頼んでおいたあるものを手に、
チャニョリのいる宿舎に急ぐ。


こんなもので元気が出るとも思えないけど、一応形だけでも……ね。



『ただいまーー!チャニョラ〜〜』




部屋のドアをノックして開ける。
するとチャニョリはベッドでデカイ体を横たわらせていた。


『チャニョラ?寝てるの?』


マネヒョンから受け取ったものを大事にサイドテーブルに置き、彼の顔を覗き込んだ。



『___っ』



僕は言葉を失った。
寝ているようだったけど、
その瞑った目からは静かに涙がこぼれていた。
眉間も微かにシワが寄っている。



『ちゃにょ、ら』




彼の痛みが心に突き刺さるようで、
僕の堪えていた感情が溢れ出す。



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