book
□Electric shock
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『はぁ』
ため息と一緒にソファに仰向けになる。
部屋の明かりが眩しいのか、自身の腕で目を覆った。
『セフナー、そろそろ行くぞ』
『ん、あ、はーい』
ギョンスヒョンが部屋を出るように促す。
当然僕の次はすぐ側にいる、横たわる彼だ。
『ベッキョナ寝ちゃったの?』
『ヒョン、しー!』
『?』
僕は慌ててギョンスヒョンを制止する。
止められたヒョンは きょとん、と大きな目で首をかしげていたが、
すぐひらめいた様に「あぁ」と頷いた。
『じゃ、先行ってる』
パタンと部屋のドアが閉まる。
僕がベキョニヒョンを気にかけてるのを、ギョンスヒョンは知ってる。
公演後、必ず行う反省会で
ベキョニヒョンは自分自身に打ちのめされていた。
公演中、一番周りを見てるのも、気遣うのも、観客の反応に敏感なのもベキョニヒョン。
どんなにどんなに頑張っても、結果が着いてこない事なんかよくある。
だけどヒョンは、何がいけなかったのか、何が足りなかったのか、自分には何ができたのか__深く深く考える。
ファンには絶対に見せない苦悩の顔。
僕はそっとヒョンに話しかけた。
『ベキョニヒョン』
優しく頭を撫でる。
『ん』
『帰りましょう。』
『…ん』
頭を撫でていた手を離そうとした時、
ヒョンの手が僕を掴んで止めた。
『なぁセフナ……』
『…はい?』
『……エリたち楽しかったかな』
目を腕で隠したまま、ぼそっと呟く。
僕はもう片方の手で、また頭を撫でて答える。
『楽しんでましたよ。』
『俺、空回ってない?』
『ふふ、大丈夫ですって。』
『……なんかエリに伝えた方がいいかな』
この「伝える」はSNSで発信するという事。
この質問に僕は正直に答えた。
『ベキョニヒョンは充分ライブを盛り上げてくれました。あとの事は他に任せればいいです。ほらチャニョリヒョンなんて多分言われなくてもやると思いますよ。』
かすかに腕が移動して、
隠れていたヒョンの目が見える。
『それにヒョン1人で悩むことじゃないですよ。皆と……僕にも一緒に悩ませてください。』
ヒョンの目が少し明るくなった気がした。
『……行きましょう、ホテル帰れなくなっちゃう』
『ん』
ヒョンはソファに横たわったまま、
両腕を上げる。
それを引っ張り起こし、みんなの待つ車へと向かった。
『ベッキョナおはよ』
『はよー』
『セフナは?』
『知らねーなんで俺に聞くんだよ』
ギョンスが朝食のトレーを持って向かいに座る。
『怒るなよ。昨日よく寝れた?』
『うん。まだ眠ィけど』
『みんなそうだよ』
『チャニョラは?』
『知らないなんで僕に聞くの?』
『』
言われて相手の顔を見ると、
ニコニコと笑っていた。
やべー、ギョンスはこういう仕返しが得意なんだ。
『…ごめん』
『それでよし。』
ギョンスには敵わない。
だから俺の最近の悩みも解消してくれるような気がして、話してみることにした。
『え?もっかい言って?』
『えぇ。だから、__その、あいつが俺に触れると、そこが痺れたような感じがすんの!』
周りに聞こえないように小声で伝えた。
最近、セフンに触れると妙な感覚になる。
でもそれは別に嫌なものじゃなくて。
ライブ後や忙しい時は疲れが癒される気がしていた。
『そ、それってどこに触れたの?』
『ああ?手とか頭とかだよ。あいつなんか特別な能力とか持ってんじゃね?あいつだけなんだよ、こんなんなるの。』
『』
ギョンスは暫くして、ふっと微笑んだ。
『ねぇ、知ってる?僕も人から聞いたんだけど』
『………?』
『物には全部微弱な電気が流れてるんだけど、それはもちろん人間も一緒でね、
その電気は好きな人と触れ合った時に反応しあって電流が流れるんだって。』
俺はギョンスの話に自分を当てはめてみる。
『どういう事かわかる?』
じっと目を見つめて俺の表情を伺う。
『……』
『僕はそれ聞いて納得した。チャニョリはほかの人とは違う、僕にとっては特別な存在なんだ。……あ、でも絶対あいつに言うなよ。またうるさいから』
はは、と笑って、コーヒーを啜った。
『ベッキョナの感じた痺れも、そういう事なんじゃない?』
『……』
『ヒョン大丈夫?今日も人1倍はしゃいでたもんね』
そう言いながら、セフンが昨日と同じように頭を撫でる。
今日も無事公演が終わり、今はホテルのベッドの上。
今朝のギョンスの電流の話を確かめるため、俺はセフンが自分に触れるのを待っていた。
昨日は本当に反省点が多くて落ち込んでたけど、今日は落ち込んでるフリ。
セフンに背中を向けて、撫でられてる頭に意識を集中した。
触れた所は一瞬痺れたような感覚のあと、そこから全身にじんわり温かいものが広がる。
それはやっぱり、最近セフンの時だけに感じていた妙な感覚で、
その温かい何かが、今日の疲れを取り除いていくみたいで心地いい。
「その電気は好きな人と触れ合った時に反応しあって電流が流れるんだって。」
「チャニョリはほかの人とは違う、僕にとっては特別な存在なんだ。」
頭の中でギョンスの言っていた言葉を反芻する。
まさかセフンが特別?
そりゃ同じグループで苦難を乗り越えてきた大事な仲間であり、可愛いマンネだ。
特別は特別だけど、それ以上の感情があるなんて、自分で意識したのは初めてだった。
『ヒョン元気出して』
黙ったままの俺が心配になったのか、
セフンは後ろから俺を抱きしめた。
ふわっと香る、いつものセフンのいい匂い___
後ろから回ってきた、細いけど角張った腕。
俺はその腕にそっと自分の手を添えた。
トクントクンと小さく鼓動を打ち始める。
その音と温もりに浸っていると突然___
カプッ
『ッ!?』
セフンの歯が俺の肩を甘噛みする。
その歯の感触は背筋をゾクゾクさせ、
噛まれた場所は熱を持ち、
体温が急上昇した。
『ばっ、なにす…』
慌ててセフンの方を振り向く。
『あ、やっと喋った♪』
振り返ったすぐそこで、目をくしゃっと潰してセフンが微笑んでいた。
『____っ』
『元気出ました?』
俺はプイっと、また背を向けた。
不覚にもセフンの笑顔がめちゃくちゃカッコよくてときめいたなんて___
『もーーーヒョンてば……』
ガブッ
『んんッ』
さっきよりも強めに噛まれると、また更に体温が上がる。
『バカか!やめろ!』
振り向いて文句を言う。
『え〜いっつもやってるじゃないですか。しかもヒョンのがしつこく噛むくせに!』
___いや、確かに。
ついこの前までは噛もうが噛まれようがただの遊びで、ほんとにおふざけで軽い気持ちでできてたんだ。
でも今は、それが遊びだと思えない。
ガジガジ噛まれる度に体が反応してるのが自分でも信じられなかった。
___俺明らかにこいつの事意識してるじゃん……………!
『、や、めろって…!』
するとパッとセフンが離れる。
今まで触れていた部分の温もりが消え、再び後ろを振り返った。
セフンは口をきゅっと結び、そばかすの頬はピンクに染まっていた。
『……せ、セフナ?』
先程とは様子の変わったセフン。
『……どした?顔赤いけど』
『〜〜〜ヒョンこそ…赤いですよ!』
『…っ、そんなのはわかってんだよ!お前がどーしたのかって聞いてんの!!!』
『……ヒョンが!』
『?』
『ヒョンがそんな反応するから、…じゃないですか…!』
『…っ』
自分の顔が益々赤くなるのを感じた。
___わかってるよ、でも、自分の感情の変化に俺自身がついていけてないんだって……!
『……ヒョン、もう無理です。』
『え』
『ヒョンのただの弟でいるの嫌です。グループのマンネってだけじゃ嫌だ。』
『 ___ 』
ゆっくりとセフンが顔を寄せる。
徐々に近づいてくるセフンのイケヅラに体が硬直して動けない。
そのうち予想通り唇にセフンの体温が重なった。
まつ毛が近い____
彫りが深い____
ついこの前まであどけないヒヨコ……ピヨちゃんだったくせに……っ、
こんなセフンなんか俺知らねぇ……!
『ば、っ、き、、キスしたな…!?!?』
唇が離れて数秒後、すぐさま口を拭った。
『……しました。』
『しっ、しましたじゃねーよ!アホ!』
『……その反応可愛いすぎでしょ』
『……はぁぁっ?わっ、ちょ、まて!ふな!?』
俺の手首を掴み、簡単に組み敷いた。
真剣な表情のセフンに見下ろされる。
『やっと僕のこと意識してくれましたね___ヒョンが弟としか見てくれないから、僕も徹して弟になってただけで、ずっと好きだったんですよ』
『』
_____嘘だろ。
『……んん』
頭で考えるスキも与えず、またすぐに唇が重なった。
うわっ___何してんの…っ、
キス?し、舌……っ
無理やり押し込まれた舌が咥内を犯してく。
ついさっきこいつの事を意識してると気付いたばかりなのに、この急展開に頭はパニックだった。
『……っ、んぅぅ…!!!』
『イデッ』
気が動転した俺は、足でセフンを蹴り、無理矢理キスを終わらせた。
『ひょん……ひど……痛……』
ベッドの下に落ちたセフンが腹を押さえて蹲っている。
『う、うっせ!お前が無理矢理するからだろ!!!』
『うぅ……はいはい。乱暴すぎましたね、ごめんなさい。……じゃあ今度は優しくします』
『はぁ!?ばっ、バカバカ何すんのもーいいよやめろ!!!』
『ぶっ』
俺の反応を見てセフンは大声で爆笑した。
『嘘ですよ、もうしませんから。せっかくヒョンが僕を見てくれたこの状態をじっくり楽しみます。』
???
『ひとまず今日は寝ましょう』
ニコニコ笑いながら、何事も無かったように俺と一緒のベッドに入り込む。
『そ、そっちで寝ろよ!狭いだろ!』
『狭いならもっと端に寄ってください』
『なっ、〜〜っ、お前がそっち行けばいいだけだろ!』
『はいはい。緊張してるの?ヒョン可愛いなぁ』
『はァァ?テメーまじでいい加減にしろよ!』
『あーもう煩いな。僕ヘトヘトなんで静かにしてください。』
『〜〜〜っ、何もするなよ!?一緒に寝るだけだぞ!?』
『はいはい』
また何をされるのかと身構えていたものの
、しばらくしてすぐ隣で規則正しい寝息が聞こえ始める。
背中を向けていた体を戻し、セフンの寝顔を確認した。
スヤスヤと眠るその顔は、まさに俺の知っている弟の顔___
マンネのくせに俺をからかって楽しみやがって……。
さっきのキス顔とは大違いだ。
それでもやっぱりセフンの触れているところはじんわり温かく、落ち着く。
俺の特別はセフンだったんだ。
Fin♡