book
□Everlasting Love
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『は?』
『だーかーら!同窓会あるんだって!』
『……だから?』
『もーーーーギョンスヤも行くでしょって言ってんの!』
携帯から目を離して彼を見ると、
まるで尻尾を振った大型犬のように
期待に目を輝かせて僕を見つめていた。
『……行かない』
『っ、えええええぇぇ!』
『うるさっ、何時だと思ってんだよ』
『なんでだよ行こーよ!お前高校ん時だってぜっっったいに飲み会参加しなかったじゃんか!』
『』
『大学の時だっていっつも来なかったよな!?その度に俺はさみしーーー思いをしてたんだぞ!もーいい加減来いって!
担任の先生も来るんだって!ほら!恩師に会わないでどーすんだよ!?』
夜中の1時だというのに、チャニョルの同窓会の誘いは止まらなかった。
こいつ言う通り、僕は今まで飲み会に参加することは無かった。
高校でこいつと出会い、友達以上恋人未満を経て、今は一緒に暮らしている。
もちろん恋人として。
こいつも僕も、つるむグループは違ってたし、共通点も少なかったけど、
不思議と気が合う僕達は、2人でよく行動を共にしていた。
後になってわかった事だけど、この頃からお互いに好きだと感じていたんだ。
『なぁ、行こーよギョンスぅ』
いつもなら、こんなにしつこく誘うことはないのに。
一体どんな心境の変化なんだ。
上目遣いで目を潤ませて、
飼い主におねだりする大型犬。
僕がこれに弱いって、こいつはわかってやってるんだ。
『な?いいだろ?ギョンスヤと行きたいんだってば』
『』
『ギョンスぅ〜』
『 〜 っ あ〜〜〜もう煩い!わかったから!』
表情をぱあっと明るくさせて、
大型犬は飼い主に覆いかぶさった。
『んっ』
『ギョンスヤ大好き』
おでこに、頬に、首に、順番にキスをして、最後に鼻の頭にチュッと音を立てた後、服の中に手が入り込む。
『ば、何時だと思って』
『さぁ?』
『明日も早いから、…っ、寝かせろ』
『寝てていいよ』
『はぁ?…んッ、無理』
『じゃ、起きてていっぱい善がって』
『〜ッ』
〜同窓会当日〜
『お〜〜チャニョラ!』
『うわっ、久しぶり!』
学年全体の大きな同窓会に、会場は人で溢れていた。
一歩進む度に、チャニョルは声をかけられ、なかなか前に進むことが出来ない。
『いや〜、チャニョル君相変わらずカッコイイ〜〜』
『ううん、前よりカッコイイって』
当時から人気者だったチャニョルの周りには、いつの間にか大きな輪が出来上がっていた。
『あれ?お前ら仲良かったんだっけ?』
1人が僕とチャニョルを指した。
『あ?仲良かったんだよ知らなかった?』
チャニョルは僕の肩を掴んで笑った。
『え〜そうなんだちょっと意外〜』
“意外” ねぇ……。
そりゃそーだろ。
率先して目立っていくチャニョルに対し、僕はできるだけ目立たないように努力してたタイプだから。
この中でも、僕の名前を覚えてる人は少なそうだ。
チャニョルの隣に居ても、僕の事に触れたのはたったこの瞬間だけ。
僕は食べ物を取りに行くふりをして席を立った。
チャニョルを取り囲む輪から抜け出ると、一気に気が休まる気がした。
焼酎片手に会場を客観的に見回してみた。
懐かしい顔なじみは皆いい大人になり、
それぞれの近況を話し、懐かしい話で盛り上がっている。
チャニョルも然り__
僕が隣からいなくなってる事すら気付いてなさそうだ。
これだから来たくなかったのに___
僕の中の黒い気持ちが増長するだけなんだ。
こんな醜い感情を抱く自分自身が大嫌いだから。
『ギョンス君て結構飲めるんだね』
『ん?そぉかな?』
『やだーーーっ、高校ん時もこんな可愛かったっけ?』
『いや、ほとんど喋った事ないよね?』
『そーだ!いっつも静かだったよねぇ〜』
『でもでもよく見たらイイ男!あと数年早く知ってたら結婚しなかったのに!』
『あははw 』
やけ酒と、なぜか女性に囲まれる僕。
『彼女いるの?』
『じゃなくて結婚してたり?』
『け、結婚なんて全然……!彼女だってずっといないし…』
『え〜もったいない!好きな子は?』
『……いる』
『へぇ、職場の子?』
『…んーん……』
『…?』
彼氏はいるけど、彼女はいない。嘘はついてない。
チャニョルも僕も、周りにカミングアウトする気はなかった。
そして、僕の視線は無意識にその人の方を向いていた。
そこにはさっきと変わらず楽しそうに笑う、僕の大好きなチャニョルがいた。
『ギョンス君?どーした?』
『ちょっと風当たってきますっ』
バーの階段を降り外に出ると、線路沿いの植込みの前に座り込んだ。
急に動いたせいで酔いが回り、僕はしばらく動けないでいた。
『おえ』
気持ち悪…………
帰りたい。
チャニョル____
『大丈夫?』
誰かの声がして、目をぼんやり開けると
さっき話していた子の中の1人が僕を覗き込んでいた。
『ちょっと休憩しに行かない?』
___ん?
あれ?返事してないのに、僕の体はその子に支えられながら歩き始めた。
『え、や、あの』
その子は有無を言わさず僕を誘導して行く。
気付かないうちに相当飲んでいたようで、止まろうにも思うように体が言うことを聞いてくれなかった。
『ギョンスヤ!!バカっ!どこ行くんだよ!?』
グワングワンと全身に血が通う音が耳のすぐ側で聞こえ、
自分の名前を呼ばれて振り向いた瞬間、よろめく体。
でもそれは地面に倒れる前にチャニョルによって抱きとめられた。
『ちゃ、にょる、?』
『どーしたんだよ?めっちゃ探したんだぞ!___わっ』
フラフラしていうことを聞かない僕の体は、その場にチャニョルごとしゃがみこんだ。
『ギョンスヤ、飲みすぎ……、ヤバそう?水持ってくる?』
いつものチャニョルの匂いと、タバコの匂い。
『_け、』
『え?』
『…………』
『ギョンスヤ?何?』
『あっち行け……』
『え!?な、なんで』
僕の体を支えてくれているチャニョルの手を振り払った。
『探してたなんてうそでしょ!?いーよ嘘つかなくて!
みんなと話してて僕がいないことにも全然気づかなかったんだよね』
『…え、』
『いいの!いいんだよ!チャニョルが楽しんでるのはいい事なの!』
『…は?ってかギョンスヤw めっちゃ酔って』
『うるさい!』
『』
『僕がっ、今までなんで飲み会参加しなかったのか、教えてやるよ』
『は?……え?…え?』
チャニョルのお気に入りのセーターの胸倉を掴んで引っ張った。
あっち行けと言ったくせに、今度は自分に引き寄せて、自分でもおかしいと思うけど止まれなかった。
目の前に来たチャニョルを精一杯睨みつける。
『お前が、他の奴と、話すのが嫌だったから!それだけ!』
『』
『どう?満足?お前がどーーーしてもって言うから来たけど、やっぱり僕の知らない思い出話ばっかり……そんなの聞きたくない!』
『』
『どんなに頑張っても、お前の過ごした過去に、僕は行けないだろ……』
『……?』
『ぼ、……僕だって、チャニョルとの思い出たくさんあるのに!…学校抜け出して公園で喋ったり……っ、2ケツで隣町まで行ったり……っ、僕だって、僕だって……』
『……』
『……僕の…チャニョルだろ』
もう自分で何が言いたいのかも、何を言ってるのかもわからなった。
でも飲みすぎたのは確かで、ずっと心臓は激しく打ってるし、
その音で自分の声が遠く聞こえて、他人が喋ってるような感覚だ。
『ほら、こんなにグチャグチャでみっともなくなるから、やっぱり来なきゃよかったんだ___!
本当なら__本当なら楽しく笑ってなきゃいけない時間なのに___!』
『……』
僕のこんな黒い醜い気持ちで、チャニョルの楽しい気持ちを台無しにしてしまった____
『ぎょ、ギョンスヤ……』
気付くと目の前のチャニョルの顔は真っ赤になっていた。
口をきゅっと結んで、目を潤ませている。
そしてすぐに花が咲いたような笑顔で、僕を抱き締めた。
『ギョンスヤ…俺今めっっちゃ嬉しい!!!!』
__嬉しい?なんで?
『“僕のチャニョル”だって…、うわぁあやばいクソ可愛い…っ、ギョンスヤだって俺のだもん…っ』
ぎゅうっと更にきつく抱きしめられる。
そして少し体を離し、チャニョルは僕と目を合わせた。
『ヤキモチ妬いてくれてるなんて思ってもみなかった。ごめん…無理矢理連れてきて…。でもこれにはワケがあって……、』
今度はポケットを探り、何かを取り出すチャニョル。
僕の目の前に差し出されたのは、よくテレビで見かける小さな箱___
____嘘だろ。まさか。
パカッと開かれたそこには、予想通り
2つ並んだ男物のリング___
ごついチャニョルの指がそれを掴み、
僕の左薬指へとはめていく。
チャニョル自身もそれをはめると、
照れ隠しでニヤついたぶっさいくな顔で笑っていた。
『どうしても同窓会でプロポーズしたかったんだ…サプライズしたくて。
みんなにお披露目兼ねて、祝ってもらおうと思って…。』
『…………あ、あほ』
チャニョルらしい。
2人の出会いから今までの出来事が、
一瞬ずつ頭の中で蘇り、その時の喜びやら楽しさや、
怒りや不安、愛しさ、これからのこと__。
いろんな感情が溢れ出てきて、やっと出てきた言葉がこれだった。
それでもチャニョルは、大きな体で包んでくれる。
あったかくて広くて、僕の事を一番理解してくれる__大切な存在。
わぁっと言う歓声と共に拍手が沸き起こった。
そこで我に帰った僕は、
チャニョルの肩越しに、僕達を囲む知らない人の視線に気がつく。
『チャニョラ…、人が見てる………ちょ、離れろ』
『何言ってんだよ今更!ギョンスヤ…大好きだよ』
『…っ』
その後、一部始終を見ていたクラスメイトが
同窓会の会場でそれを伝え、
チャニョルの思惑通り、同窓会兼婚約パーティーとなった。
たまたま通り掛かった人が撮影したその動画はSNSに投稿され、
ゲイカップルのプロポーズは世界中に拡散されたのだった。
fin♡
おそまつさまでした♡