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□悪いのは君
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〜君が僕を好きでも〜



時間は午後8時___


深く被った帽子と白いTシャツ、黒い大きなリュック、
チノパンの裾を織り上げたそこから見える白い靴下___

ファッションこそちょいダサなものの、
太い眉毛と大きな黒目が存在感を放っている。

彼の名前は ギョンス 


少し先の地面を見つめてひたすら帰路を歩いていた





『ただいまー』


年期の入った大きな一軒家の玄関を
低い声と共に開け、靴を脱ぎ中へと入っていく。



『おかえりなさいギョンスひょーん♡』



まず始めに出迎えたのは セフン
シャープな顔立ちとスラッとしたスタイルでコーナーソファに寝転んでた彼は、
待っていたと言わんばかりに飛び起きた。


『おっっかえりーーーー!』



次に出迎えたのは ベッキョン
シンプルな顔立ちの彼は、セフンのいるソファの前で
ゲームのコントローラー片手に振り返った。


『………………』



無表情で部屋を見回すギョンスにセフンが縋り付く。



『ひょぉ〜ん♡お腹減ったーーーー!もーペコペコです!なんか作って〜〜〜』


自分よりも40センチは小さいギョンスの肩に自分の頭を擦り寄せて甘えた。


『ぎょんすーーー俺もハラ減ったーーー』


テレビ画面を見たまま、ベッキョンもうったえる。
するとギョンスは大きく息を吸い込みセフンを払いのけた。


『〜〜〜〜〜っ、二人共!!!何時に帰ってたわけ!?!?』
『『』』


ビクッとフンベクの肩が上がる。


『僕いっつも言ってるよね!?僕より先に帰ってきたら洗濯物は取り込んで畳んでおけって!
夕飯だって帰りの早い奴が作るって!』


ギョンスの剣幕に、フンベクの顔が引きつっていく__



『洗濯物は干したまんまだし、夕飯どころか部屋こんなに散らかして…!!!いい加減にしろよ!!!』
『ひぃっ…』
『大体僕の方が遅くなることなんかたまにしかないんだから
そんな時ぐらいちゃんとやれよ!』
『う…っ、、ギョンスごめん……!お、怒んなって』
『あわわ、ぼ、僕なんかご飯買ってきまーす!!』
『お、俺もっ、部屋片そっかなっ!』

 
バタバタとセフンが玄関を出ていき、ベッキョンはゲームの電源を落として床に散らばったゴミや服を集め始めた。


ギョンスはそれを鋭い眼光で見守り、
しばらくして自分も洗濯物を取りにベランダへと向かった。


この古い一軒家の持ち主はギョンスの両親。
今は仕事の都合で海外に行っていて不在なのだ。
ギョンスは2年制の専門に通う学生、
ベッキョンは社会人3年目、セフンは社会人1年目__
兄弟でもないこの3人が、わけあって一緒に暮らしてもうすぐ1年になる。



学生であるギョンスが一番時間があるため、家事の殆どをこなしている。
ギョンスもそれでいいと思っているものの、
たまに実習で遅くなるこんな日くらい
家のことをやっていてくれてもいいと思うのも当然だ。



『んーっ、弁当美味い♡』
『セフナのおごりだからね』
『・・・・・・はぁい』
『セフナごちそーさん!w』
『ベッキョナ、お前はトイレ掃除だぞ』
『う・・・・ほぉい』
『……いつも以上に手厳しいですねぎょんすひょん……。なんかあった?』
『いや、ギョンスはいつもこんなだろ。』
『いいから早く食べて風呂入って寝ろ』
『ううっオンマだぁぁww』
『うるさい』
『『』』



午前0時___




『ベッキョナまだ起きてんの?』


居間の大画面のテレビで相変わらずゲームに没頭しているベッキョンに、
ギョンスが話しかける。


『おー、キリのいいとこまでやってから寝る。……とぉっ!あぶねっ。
セフナは?もう寝た?』
『もうとっくに自分の部屋行った。僕ももう寝るから、ちゃんと電気消して寝ろよ。』
『はいはいオンマわかりましたよ〜……ッテテっ、ギブ!ギブギブwww』
『あははwww』


ギョンスはソファから覗くベッキョンの首に後ろからプロレス技をかけると、
さっきまでの鋭い目つきとは打って変わって、目尻を下げくしゃっと笑った。


ベッキョンはその表情に見とれたのか、時が止まったように固まる。
でもそれもほんの一瞬で、すぐに笑顔で自室へ向かうギョンスを見送った。



広いこの家には部屋が4つ。
1階には両親が使っていた部屋とリビングダイニング、2階には部屋が3つ。
この2階の三部屋が、それぞれの部屋になっている。
階段上がって右側はギョンスの部屋、正面はベッキョン、左側はセフン。



中でも、綺麗好きで整理整頓が得意のギョンスの部屋が一番片付いていた。


自室に入りふかふかのベッドに身を預けると、すぐに眠りにつく。


このまま朝までぐっすり____




_____したかったのに。






ぎゅっ。



後ろから温かい体が密着してくる。
眠りについてさほど時間が経ってない頃、
ギョンスは抱きつく“そいつ”によって目を覚ます。
でも“そいつ”が誰かギョンスにはすぐにわかった。



『……………せふな』
『…あ、起こしちゃいました?』


セフンは へへ、と静かに笑うと、ギョンスの耳元に吐息がかかった。
それを擽ったそうに肩を竦めるギョンスに、更にきつく体を寄せる。



『……自分の部屋行け。』
『やだ〜眠れないもん』
『ここに来ても寝れないだろ。』
『寝れる!ギョンスヒョンいい匂い…♡』
『……』



仕方が無いな、と大きく溜息をつくと、ギョンスはまた黙って目をつぶった。


ウトウトし始め、そろそろ夢の世界に落ちるという時、
今度は足元からガサっと掛け布団の擦れる音が聞こえ、ぱっと目が覚めた。


後ろからセフンの気持ちよさそうな寝息が聞こえるから、音の正体は他でもないベッキョンだ。


寝ぼけながら薄目を開けると、彼はすぐ目の前に居て、ギョンスの横に寝転んだ。



『あったけー♪』



布団の中でガサゴソと足を擦り合わせながら、隣のギョンスにピタッとくっつく。


『…………べっきょな』
『おぅ、おやすみギョンスっ♡』


ここで寝るのが当然のような2人の態度に、また大きなため息を吐き出す。


いくらなんでも大の大人、しかも男3人でベッドは窮屈だろう。


これじゃ寝返りも打てない。
それでもギョンスは2人を追い払いはせず、再び静かに目を閉じた。







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