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□One Step Closer
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「ジョンイナ、ごめんな…僕のせいで残業させちゃって」


「いいんですよギョンスヒョン、どうせ帰っても暇なので」





申し訳なさそうに眉毛を下げるこの人は、
俺の想い人




余計な心配をしてほしくなくて
笑顔で答えたけど




それでも責任感の強いヒョンは
俺を気遣って早く終わらせようと作業に没頭する






「彼女さんに連絡したんですか」





パソコンに目を向けたまま
話しかける





「うん、メールしといた」

「怒られないですか?」

「はは、全然大丈夫」




目元をくしゃっとさせて
ハート型の口が笑う





__そう、その笑った顔が最高なんだ




いつだったか同僚と話すギョンスヒョンの近くを通りかかった時






たまたま聞こえて知ってしまった



彼女がいること____





俺のことを何かと可愛がってくれるけど、それはあくまでも後輩としてのこと





自分はヒョンの後輩以上にはどうしてもなれないこと____








俺がこんなに貴方に想いを寄せてるなんて



ヒョンはきっと考えたこともないね







「あ〜、あとちょっとなんだけどな〜。サーバーが重い」

「もう寿命なんですよね。早く新しいのに替えてくれないかな」

「んー……いいや、ジョンイナそれ見てて。僕コーヒー買ってくる」

「あ、俺買ってきますよ」



「いいからいいから」と手を振り、数分後に缶コーヒーを2つ手にして戻ってきた





「あれ、……まだダメ?」

「……はい、進まないですね全然」





ヒョンはため息をついたあと、

コーヒーを渡す





「休憩しようか」





パーテーションで仕切られてるだけの簡易的な応接間のソファに移動する







俺達以外帰ってしまったオフィス



会話が止むと静けさが際立った





「ジョンイナは…彼女いないの?」

「俺ですか?いないですよ〜」

「とか言っているんでしょ?」

「あはは、そんなのいたら残業付き合ってないですって」

「そっか、それもそうだね」



「でも……」とヒョンが切り出す





「?」

「ずっと前だけど、女の人と楽しそうに歩いてるとこ見たよ」

「へ!?いつ!?」





まったく身に覚えのないことに記憶の糸を辿る





就職してから彼女は出来てないし、ましてヒョンに恋してしまった俺は、女の子と会うなんてこともしてなかった





「彼女じゃなかったの?犬の散歩してて、綺麗な人だったけど……」

「……!それ、ヌナです!」





思い出した



友達の家に行くとき、ちょうどヌナが犬の散歩に出るって駅まで一緒に歩いたんだ



それをヒョンに話すと、目を丸くして驚いた





「……な〜んだ、てっきり彼女だと……」





俯いて照れ笑いをしたヒョンの頬はピンクに染まった





ドキッと心臓が跳ねる









_____俺が好きなのは貴方です







言えたらどんなにいいだろう





ピンクの頬に触れることができたらどんなに幸せだろう







そんな事を思うといつも息苦しくなるから、考えないように別の事に集中するんだ





「ジョンイナ」

「?」

「僕、ジョンイナが好きなんだ」

「……え?」





それはあまりに唐突で……





聞き間違いだと思い





ヒョンの顔を見つめた







「……ごめん、……気持ち悪いよね……、うそ、今の無かったことにして」

「え…いや、ちょっと待って……!」





立ち去ろうとするヒョンの腕を掴んで止めた





______聞き間違いじゃない……?





「……ヒョン、彼女いるって……」

「…………うそ、なんだ…。ゲイを隠すための……」

「……うそ…………?」











嘘だった?





今度は掴んだ手を引き寄せて隣に座らせた





「……もう一回、……言ってもらえませんか」

「………………」





聞き間違いじゃないかまだ信じられなくて、確かめたくて、真剣な眼差しを送る





「……ジョンイナが、……好き、なんだ」





みるみるうちに頬はピンクから赤に変わる





「ヒョン……!」





聞き間違いじゃなかった……!


嬉しさで思わずヒョンを抱きしめる




「ふふ、ヒョン……、嘘みたい……!」
「ジョンイナ…!?」



耳元から苦しそうな声が聞こえ、力を緩める





「ふ、ふふっ」





笑いが止まらない俺を不思議そうに見上げる大きな目





一度ニヤケてしまった顔を戻すのは困難だ





「じょん、いな……?」

「ヒョン、大好きです……!」

「……!」





いつも触れたいと思っていたあの頬に自分の手を添えて伝える





でもヒョンは寂しそうに目を伏せた





「…………先輩として、でしょ?僕の言ってる好きは……違うんだ……その、」

「違う!先輩としてじゃなく、俺もヒョンが大好きなんです!」

「…………え…………、気持ち…悪くない、の?」

「ふふ、ヒョン目が落っこちちゃうよ」





衝動に抗えずにヒョンの大きな瞳に軽くキスをした





「……っ!」





ますます顔は赤くなり目を大きく開いたまま固まってしまった





「……ね、ヒョンわかってくれた?俺、ずっとヒョンが好きだったんだよ…!」

「……ジョンイナ」





今度はゆっくりと、幸せを噛み締めるように抱き寄せた





ヒョンも俺に腕を回し、その強さと温もりから感情が伝わってくる









「…………ヒョン、やばい」

「え?」

「シたい」

「……っ!?」

「ヒョン」

「……え、ちょ、……あっ」














(そのあとすぐにヒョンの家に押しかけましたとさ)








Fin♡





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