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□何度も言うよこれが運命だから
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『うおぉぉぉやべぇぇぇ遅刻ーーーーー』




昨日夜中までゲームに没頭してたのがいけなかった
久し振りに寝坊した俺は
なんとか15分で支度を済ませ玄関のドアを勢い良く開けた


腕時計を見るといつもならもう電車に乗ってる時間で、
慌てて自転車に跨りペダルを力強く踏み込んだ


『わっっっ!!!』


アパートを出て右に曲がると
ちょうどそこにこちらに向かう歩行者が現れ、
ぶつかる寸前で左にハンドルを切った



急いで避けたけど、右ハンドルに相手の腕がかすってしまい、
バランスを崩した俺はガシャンと言う音と共に自転車ごと倒れた


俺は慌てて相手に声をかける


『だ、大丈夫ですか!?すいません!!!』
『あ…僕は大丈夫です。そちらこそ大丈夫ですか?』
『』



ぶつかったのは俺と同年代位の男で、
転んだ俺を心配そうに見ていた


そいつと目が合った瞬間、
俺の心を衝撃が貫いた




____…すっげータイプ!!!!



理想が服着て歩いてるって
よく言葉では聞くけど……まさにそれ!



俺に一歩ずつ近づいてくる彼を
ポカンと見惚れて見ていた


『大丈夫ですか?怪我は??』


彼の手が俺の手を取り、立ち上がらせてくれる


『?』


言葉を失った俺を不思議そうに見上げる大きな目___


身長から何から全部タイプ!!!



『あ……、あっ、ご、ごごめんなさい!俺は全然へーきです!!もー全然!なんとも!』
『なら良かった。じゃ、』


ペコッと奥ゆかしく会釈をした彼は
また元の進行方向に進んでいった


『あ………』


周りには聞こえない小さな声で
遠ざかる彼の背中に手を伸ばした


____なんだあの子は………!
なんて美人……、いや可愛らしい……
可愛らしいんだけど芯の強そうな真っ直ぐな落ち着いた目をしてて…、
第一ボタンまでしっかり閉めたシャツが真面目そうで…

背負っているリュックが大きくてなんとも言えないショタ感……
うわっ、どうしよう、連絡先聞いときゃよかった…
駅と反対に向かうってことはこっちが職場なんだろな…

まだ心臓がバクバク鳴っている


『あ!!!』



じゃなくて俺ってば遅刻しそうなんだった!
やっべぇぇ………
俺はまた自転車に跨ると、今度はぶつからないように
細心の注意を払って駅へと走っていった




『あれ?』


改札に着き、さぁ入ろうという所で
定期がない事に気づく


___いつも左ポケットに入れて他の場所にはしまわないはずなのに…
おかしいな…


急いでいる上に定期がないなんて
切符買う時間さえ惜しいってのに…!



結局タイムカードの印字は10:05で、
店長は「惜しかったねぇ〜」と気の抜けた声で笑った


俺の職場は個人経営のパスタ屋さん
ランチからの営業の為、サラリーマンより出勤は遅い


店長はチャン・イーシン、通称レイヒョン

ホワホワした喋り方と雰囲気、
柔らかい印象は周りを瞬時に癒やすことができる
でもその中身はかなりの努力家で野心家
別に評判が悪いわけでもないのに
更に美味しいパスタを、と研究に余念がない


それに自分で言うのもなんだけど、
俺もレイヒョンも外見には自信がある

開店と共に、周辺会社のOLさん達が
イケメンコックの俺達目当てでフロアは満席になる

だからここらへんでは名の通ってる店で
けっこう繁盛してるんだけどね



『こら〜チャニョラ〜っ、検品〜!』
『はーーい!』





ランチが終わり、ディナーも終わり
片付けに追われて気付くと閉店の時間



毎日立ちっぱなしの脚はパンパンだ
それももう慣れたけど


帰りも定期がないから切符を買い、
もしかしたら落とし物で届いてないかと
自宅の最寄り駅で聞いてみることにした



『定期?あー、お名前は?』
『パクチャニョルです!ありますか!?』
『はいはい、これね。身分証見せて』
『おおお!俺のだ!やっぱ落としてたんだ!』



財布の中の免許証を取り出し駅員に見せる



『はい、確かに君のだね。』
『どこに落ちてたんですか?』
『さぁ?でもドギョンスという子が届けてくれたんだよ』
『そう、ですか…ありがとうございました!』
『もう落とすなよ〜』
『はい!』


ドギョンス…さんかぁ
もしかして朝の人だったりして……

んなわけないか


それにしても美人だったなぁあの子
また会いたいな


瞼の裏に今朝の出来事が思い浮かぶ


『ふふ』


ひとりでにニヤける顔を隠しきれないまま
俺はまた自宅へと自転車を漕ぐのだった







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