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□会えない時間
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その晩、俺はまた夢の中にいた
また訪れたことのない場所で
花壇があり、何本も植えられた木が家のまわりを囲む
手入れの行き届いた芝生
誰かの庭であることは確かだ
霞む景色の中に
さっきまでは居なかったはずの人影がふたつ現れる
庭の端で静かに佇んでいる大人と子供
下を向く2人に近づき顔を確認する
______ギョンスヒョン!
この前の夢では4歳位だったのが成長して
今は小学3年生くらいだろうか
隣はお父さんだろう
ギョンスヒョンの肩に手を置き
励ますように抱き寄せる
2人の表情は暗い
不思議に思い
俺は2人の見つめる視線の先を見た
そこにはシャベルがひとつ、
掘り起こしてまた元に戻した、土の色が違う小さな山がある
「………ファング……」
_____ファング?
今にも泣き出しそうな声のギョンスヒョン
そこで悟る
これはペットのお墓なんだ
「アッパ?」
「ん?」
「ファングどこに行ったの?」
「…天国だよ」
「また戻ってくる事ある?」
「…残念だけど、それはないかな」
「………」
「……でも、きっとファングじゃない別の形になって
またどこかで会えるかもしれないよ」
「…ほんと?」
「うん、だからそんな悲しい顔するな」
お父さんはギョンスヒョンと目線を合わせて
ゆっくりと諭す
「でも僕…ファングに会いたい…」
「…アッパもだよ」
____ヒョン………
ヒョンの悲痛な表情が胸に突き刺さった
いくらペットでも家族の一員には変わりない
ヒョンは幼いながらもこうやって死と向き合ったんだ
立ちすくむ2人の後ろで
俺はただただそれを見守っていた
すると突然場面がパッと変わり
今度はどこなんだろうと目を動かす
そこは俺もよく知る場所
SMの事務所だった
見た顔ばかりが行き来する中で
誰も俺を気に留める奴はいない
俺はすぐにEXOメンバーを探した
各部屋を覗いていき、すぐに皆を見つける
床に座るメンバー
何か緊張感が伝わってくるそこでは
音楽がかかり一人一人
前で踊っていて課題曲のテストの真っ最中だった
___あれ…この時は確か
これはデビュー前の俺達なんだ
しかもまだお互いに仲良くない時
この頃はギョンスヒョンの印象がものすごく悪くて、
あんなに敵対心丸出しの人いるんだ、って驚いた
面倒くさそうだから関わらないでおこうと思ってたんだ
____あ、俺の番
何年か前の俺が皆の前に立つ
静まり返る練習室に音楽が流れ始め、
それに合わせて俺が動きだす
自分の昔のダンスを客観的に見るなんて
少し恥ずかしいけど
当時も楽しんで踊ってたのを覚えてる
____ふふ
ギョンスヒョンの表情を盗み見た俺は
思わず笑みがこぼれた
“ジョンイナのダンスが綺麗すぎていつも見惚れてたよ”
目つきが悪かったのは近視のせいだったって
誤解が溶けて仲良くなってから
何回も聞いてたんだ
今盗み見たヒョンはまさにそれだった
目がキラキラと輝いて
一瞬たりとも見逃さないように
じーっと見ている
俺のダンスが終わって拍手が起こり、
ヒョンも一生懸命に手を叩いてくれていた
全員踊り終わり休憩に入る
みんなそれぞれバラけていく中で
俺はギョンスヒョンに着いていった
___ギョンスヒョンっていつも誰といたっけ…?
「ギョンスヤ〜♪」
____あぁ、チャニョリヒョンか…
「なぁ俺どーだった?やっぱいつものとこで躓くんだよなぁ」
「でも昨日よりよくなってたよ」
「まじで!?」
「うん」
「やった〜!でも俺もっと頑張んねーと……」
「僕も………」
そう言ってギョンスヒョンは
ある一点を見つめる
____?
その先にあったのは
鏡の前で踊る俺
そういえばテストの気に食わなかったところを
何度も繰り返し練習してたような気がする
チャニョリヒョンが話しかけても
目線は俺に向けたまま返事をするヒョン
____俺の事こんなに見ててくれたの…??
「ヒョンは俺の事いつから好きなの?」って前に聞いたことがある
そしたらヒョンは少し悩んだ後、「出会ってからずっとかな」って答えたんだ
その時はただ嬉しくて聞いてたけど
もしこれが本当にあった過去で、
それを今夢で見ているんだとしたら
より一層真実味が感じられて
愛しさが急に湧き上がってくる
そんなヒョンに触れたくて手を伸ばすけど
すかっと通り抜けてしまった
____ヒョンに会いたい
俺はぎゅっと目をつぶり
目を覚ませと心の中で繰り返した
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