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□会えない時間
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『カイヤ〜、…また寝てんのか?』



大分遠くから俺を呼びながら、部屋に入ってくると
ドサッと音を立ててベッドへと座る



『寝てませんよスホヒョン』




俯せのまま答えた



『どうした?疲れ取れない?』
『…いえ』
『ならリビング来いよ、みんな飯頼むって』
『…ギョンスヒョンが』
『?』


部屋を出ようと立ち上がったヒョンは
俺の言葉で振り返った


『ギョンスが、どうかした?』
『………』
『あぁ、メールの返信がない?』


黙って頷く

こういう時に何も言わずともわかってくれる

何年もEXOをまとめて来ただけあるんだ
頼りになる尊敬すべきリーダー


『ギョンス、映画のPRで忙しいんだよ…大体返信はいつも遅いだろ?』


ふ、と笑みを漏らす


俺だってそれぐらいわかってる…
やっと撮影が落ち着いたと思ったら今度はPRだもんな

去年の一年間ほとんど映画やドラマの俳優業で
合間のライブをこなしたらまたすぐ撮影


そんな感じであっという間に年末になり、
恒例の歌番組をこなし、年明けた今も宿舎になんかゆっくりいられないんだ


忙しい事に不満があるんじゃない
たまにギョンスヒョンと一緒に過ごす時間が欲しいだけ


……付き合ってるんだから
それぐらい求めるのは普通だろ?


今までだってどんなに忙しくても
二人きりの時間がもてなくても
ギョンスヒョンは俺を気にかけてくれていた


でもここのところは
気にかけてくれてるのかも
わからなくなってしまったんだ

それぐらい顔をちゃんと合わせてないから



『電話は?かけた?』
『いえ…、かけづらくて』
『よし、じゃあヒョンがかけてやる!』



スホヒョンは笑顔で意気込んで見せ、
スマホを操作する
耳に充てたスマホからはしばらく呼びだし音が漏れる
やっぱり忙しいのか、とヒョンの眉が下がった次の瞬間
パァっと明るい表情に変わる


『おお、ギョンスヤ?…そっちの具合どうだ?…うん、忙しい?
うん、…うんうん、ちょ、ちょっと待ってて』


はい、と手渡される頃には
突っ伏していた俺はベッドの上に正座していた



『…もしもし?ヒョン?……うん、…うん、それより身体は大丈夫?
……あんまり無理しないで、…うん、ん…わかった、……また』


スマホからツーツーと虚しく音が鳴り、
そのままスホヒョンに返す



『なんだって??』
『…………もう行かなきゃだって』



不貞腐れて下を向く俺の頭を
優しく撫でるスホヒョン


顔を上げたら
しょうもない子供をあやすように
眉を下げて微笑んでいた


『元気出せよ、な?飯適当に頼んどくぞ』



スホヒョンが立ち去った後も
なんとなくリビングに行く気になれなくて
そのままベッドに寝転んだ


部屋に1人でいると
リビングでの会話が筒抜けだ
中でも際立って煩い約一名



チャニョリヒョンだ



「っあ"ァ"ーーーーまじでギョンス居ないと寂しいんだけど!
しかも帰り遅いんだって」
「え、なんででとぅか?」
「俳優のヒョン達と会うんだってよ。
っあ"ァ"ーーー!まじでギョンス不足!う"ァ"ーーーじゃれたい!
いや、からかいたい!そう!それで殴られたい!!
(バシッ)イデッ!!」
「うっせーんだよこのギョンス大好き野郎がばーか」




未だにこの人は信用ならない
いつでもどこでもテレビだろうとプライベートだろうと
ギョンスヒョンの事を大好きだと広言する


俺という恋人がいると知っててもそれは変わらない


いつかギョンスヒョンが取られてしまうんじゃないかと
不安になったりもする


しかも何?今なんて言った?
俳優のヒョン達と会う、だって?
初耳ですけど
なんで俺も知らないギョンスヒョンの予定を
チャニョリヒョンが知ってるわけ?


〜〜〜〜〜っ、叫びたいのは俺の方だ


なんでヒョンは俺に話してくれないことを
チャニョリヒョンには話すんだよ………








その後しばらくして、ギョンスヒョンからメールが入る
“さっきはろくに話もできなくてごめん。
ヒョン達とご飯行くから遅くなるよ。おやすみ”


やっと返事が来たのに
あまり嬉しくない


チャニョリヒョンの他に俺が危険視してるのが
俳優ヒョン達だからだ


ギョンスヒョンは転生のヒョンキラーだから

何もしなくても存在自体可愛いのに
顔に似合わない低い声も
落ち着いた所作も
キョロキョロ動くおっきな目も
可愛いの塊なんだから


俳優業で役者さんと交流が多くなり
それだけギョンスヒョンのファンが多くなったって事だ


つまり、俺のライバルが増えたわけで



共演者の人だけじゃなくスタッフさんとかにも
言い寄られてないか考えただけでも心配だ



だからもっと、もっとヒョンを俺のだって
思えるようにこの腕で抱きしめたり
いい匂いのする首筋に噛み付いたり
ううん、今はそんな事しなくても
側に居てくれるだけでいいんだ



だけどまったく会う余裕がないんじゃな……











______あれ



急に意識が戻ったような感覚


周りはやけにぼんやりと霞んでいる



_____夢…??




そうだ、ここは宿舎じゃない
どこだ…?


誰かの家に居るようだったが
それがどこなのかわからない
まったく初めて目にするところだ



「ひょん、こえは?」
「あー!ここは付けちゃダメって言ったのに…!ばか!」
「うっ…ばかじゃらいよ!ばか!」



子供の声が聞こえそちらを見ると
キッチンで何かをしている
可愛らしい背中が2つ



_____ふふ、兄弟かな?



小学校低学年位のお兄ちゃんとまだ4歳位の弟が
どうやらケーキのデコレーションをしているようだった


「もーギョンス君はあっちでオンマの絵描いてて!」



_____え、……ギョンス??



「むぅぅぅ…」


不貞腐れながらキッチンを離れたその子の顔を確かめようと
後を追った


____あれ!?俺浮いてる………
その子を追うにも足を動かす必要はなく
すーっと行きたい方向へと思い通りに進むことができた

やっぱこれ…夢なんだ……!




「いーもん!ひょんよりじょーずにオンマ描くもん!」



そう言った弟の顔を覗き込む



_____わっ……ギョンスヒョンだぁ……!

うわぁぁ変わってない!ていうか何だコレ、可愛すぎだろ…!

声たか!しかも「もん!」って……
うぉぉぉ萌えだ……萌でしかない……


拗ねて口をとがらせた表情も
今より幼くて可愛いらしいけど
ヒョンそのままだった



「ねーひょんー?」
「なーに」
「オンマ、よろこんでくれうかなー??」
「うん、喜んでくれるよ、だからちゃんと描くんだぞ」
「あーい!」



画用紙とクレヨンを引っ張りだして描いていたのはどうやらオンマで、
お兄ちゃんがケーキをデコレーションしてることから
オンマの誕生日なのがわかった



ギョンスヒョン、これ本当にあったことなのかな…?
それとも俺の勝手な妄想??
現実に戻ったら聞いてみなきゃ……







『…イナ!ジョンイナ…!』
『……?』
『あ、起きた。支度しろ、寝坊だぞ』



寝起きで重い身体を起き上がらせて周りを見回す


『あれ……ギョンスヒョンは……?』
『起きてすぐギョンスかよ、ったくギョンス人気どーにかしてほしいわw』



ベキョニヒョンは機嫌があまりよくないのか
表情は変えずに呆れた笑いを見せた



『もうすぐ帰ってくんじゃね?いいから早く支度ー』



時間は朝7時_
遅くなるって言ってたのに
帰ってこなかったんだ………


もやっとした気持ちを抱えながらも
ベキョニヒョンの機嫌をこれ以上損ねないように支度を急いだ






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