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□メリークリスマス
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『先輩』



ランチを終え、一人気分転換に外の景色を見ていると
セフン君に声をかけられる



『ため息ついてましたけど、どうかしたんですか?』



チャニョルとのあの喧嘩からもう一週間以上経ったけど
相変わらず連絡は一つもないまま


さすがにここまで連絡がないと
寂しくて寂しくて堪らない



。。。もう今日はイブだっていうのに
あいつ何考えてんだよ




セフン君とは一緒に映画を観てから
会社でもちょこちょこ話すようになり
前より確実に仲良くなっていた


だからこの事を話してみたんだ



『え〜まだ喧嘩してたんですか!?今日イヴですよ!?』
『……………』
『 なんで先輩から連絡しないんですか?』
『……………』
『意地張ってないで連絡すればいいと思いますよ』
『…でも、なんて……?』
『先輩彼女さんに謝りましたか?』
『…なんで僕が』
『ほら、そういうとこ。先輩だって自分の考えばかりで
彼女さんの主張も聞いてみましたか?』


首を横に振った


『聞いてみたら、先輩にも悪いところがあるかもしれないじゃないですか』





まずは話がある、だけでも送って
会うことが1番だと思いますよ



そう言ったセフン君に見習って
早速メールを送ってみた



“今日会わない?話したいんだ“



でも定時が近づいても
返事は返って来ず


僕はまた一際寂しい気持ちで帰路につく



でもその寂しい思いも一時で、
次に僕に訪れた感情は焦りと不安だった



チャニョルは
僕の言葉通り他を探して
既にいい人が見つかったんじゃないだろうか


やっぱり僕はチャニョルにとって
それだけの存在だったんじゃないか。。。




チャニョルに会いたい
寂しい


何してんだよ。。。。




僕は帰るのをやめ、そのままチャニョルの家に向かった


行く途中二回電話したけど
呼出しもしなかった



こんなに長い間連絡を取らない事も、返信がないのも初めてで、
あいつに何かあったんじゃないかと
その心配もあった


まさか自宅で倒れてたり
事故にあって病院に運ばれてたりして


だから僕に連絡できないんじゃないかと


不安な気持ちを振り払いながら
インターホンを押す



『はーい』



中から声がしてホッとすると同時に
なんで連絡して来ないんだと
また少し怒り混じりの疑問が浮かぶ


『どちら様ですか〜?』


そこでその声がチャニョルじゃない事に気づく
聞いたことのない男の声だった



ドクン と
心臓が大きく鳴り
考えたくなかったもうひとつの不安が蘇る



『誰?』
『わっかんねーなんも言わない』
『いたずらじゃね?』


ドア一枚挟んだ向こう側で
チャニョルと誰がが話す声が聞こえる



ドアに近づく気配がして
僕は咄嗟に逃げるように駆け出していた



。。。やっぱり
やっぱりチャニョルは僕の言った通り
他にいい奴見つけたんだ。。。!


だから連絡もしてこないし
電話も呼出しもしない

着拒してまで僕と別れたかったって事かよ。。。


もうチャニョルは僕のことなんか
どうでもいいんだ


いや
もしかするとずっと僕のことなんか
恋人として見てなかったのかもしれない


遊び…?身体だけの関係…??





心がズキンズキン痛む
走っても走ってもその痛みは消えなくて、
駅に着く頃には寒いはずなのに汗と涙でぐしゃぐしゃになっていた


艶やかに飾り付けられた電飾が滲んで
うまく見えない


ここら辺ではちょっとした
イルミネーションスポットになっているせいで
どこを見ても楽しそうなカップルでひしめき合っていた


そのカップルの波を足早にすり抜けていくと
突然目の前に人が立ちはだかった



『…??』


何事かと顔を上げると
そこに居たのは
昼間僕にアドバイスをくれた優しい後輩だった



『先輩、またばったり会いましたね』



彼はニコッと笑いかけて
すぐに僕の様子がおかしいことに気づく


『先輩…?泣いて、るんですか…?』



彼の手袋を付けた両手が僕の顔に触れ
じっと見つめられる



彼の真剣な眼差しが滲んでいく


『先輩、ちょっと待っててくださいね!』


待ってと言った彼が走って行った先に
この前とは別の可愛らしい女の人がいた


それもやがて人波に隠れ見えなくなり
少ししてセフン君だけが戻ってくる


そのまま僕の手を取り
引っ張られるように歩き出す


僕は無言でただ彼に従った



クリスマスイブにこんな喪失感を味わって
もう何もかもがどうでもよかった


セフン君に連れられ
人混みからすこし離れたベンチに座った


彼は徐に自分のマフラーを取ると
僕の首に巻いていく


『あの、いいよ、セフン君寒くなっちゃうよ』
『いいんです、先輩が風邪引いちゃ嫌ですから』


また待っててください、と
どこかへ走っていく彼の後ろ姿をぼんやり見ながら
マフラーから香る彼の匂いを吸い込んだ


当然のようにチャニョルとは違う香り


これがチャニョルのマフラーだったらどんなにいいだろう


そんな事を考えて
またこころが痛みだす


これが夢で、現実には僕とチャニョルは仲直りしてて
きっと平凡だけどいつもより少し特別なクリスマスを過ごしてるはず


。。。そう思いたかった


そうなるはずだったのに。。。。




『はい』
『あ、ありがとう』



しばらくして彼は二人分の
コーヒーを持って戻ってきた


『何があったんですか?彼女とは会えたんですか?』



僕は首を横に振り、
今までの事を彼に話した


『先輩…可愛すぎ』
『…え』
『年上とは思えない位可愛いです』
『』
『あはは、嘘です怒らないで』


僕は無意識に頬を膨らませてたようだ


『先輩、まだ彼が新しい人見つけたって決め付けるの早いと思いますよ』
『……そうかな』
『普通の友達でも家にあげたりしますよね?』
『…でも電話もメールも返ってこないんだよ…?』
『ただ意地張ってるだけかもしれないですよ?』
『明日クリスマスなんだよ?いくらなんでも…』
『先輩だって僕に言われなきゃメールしなかったでしょ?』
『…それは、…そうだけど………』
『明日、DJやるんでしたっけ?そこで話してみたらどうですか?』
『…………』
『恐い…?』


。。。恐い
面と向かって別れを告げられるのが恐い


セフン君はまるで僕の心を透視するように
的確に僕の気持ちを当ててしまう


『……会って、先輩の気持ちを正直に素直に伝えたらいいと思います』
『…正直な気持ち?』
『もーー好きだって言えばいいんですよ』
『』
『うわぁ、先輩www』
『な、なにっ』
『…可愛い』
『さっきから可愛い可愛いって言いすg……!?』



彼に向いた瞬間
唇に触れる何か


彼の顔は鼻に付きそうなほど近くて

寒くてすっかり冷たくなった唇は
麻痺してるのか感覚が鈍い



今僕の感じたこの感触は
彼の唇によるものなのか、
離れていくのを目で確認して
やっと納得する



『…え、ちょ、セフン君…!?』
『はは』


ははって……


『……そうやって色んな人にキスしてるんだね…なんかわかった気がするよ……』


彼は口角を上げ僕に微笑むとこう続けた


『僕先輩だったら女遊びやめますよ』
『…………はぁ?』
『先輩だったら、また恋が出来るかもしれない』


冗談ぽく笑っていたのに
その言葉は少し切なげに手元を見て呟いた


『先輩…、彼女じゃなくて彼氏さんだったんですね』
『え、…あぁ…、引いた?』
『いえ…』


彼はその後少し黙ってから
ぽつりと話し出した


『僕にもとても大好きな人がいました』
『…』
『その人は3つ年上で、とても頭がいいんですけど、それを表に出さずに
裏方に回るような………奥ゆかしい…そんな言葉が似合う人でした。
とても頑張り屋さんなので、たまに消えそうな位 はかなくて脆くて
ほって置けなくて…』
『…付き合ってたの?』
『はい。ちょっとの間一緒に住んでました。でも……』



僕は彼の話に黙って耳を傾けた



『厳しい家柄だったので両親から猛反対を受けてたのと、
僕の将来を心配してたみたいで……
僕にひと言も言わずに一人で悩んで、結果その人はこう言ったんです』
『…』
『〃僕は本当は女性が好きなんだ、別れよう〃って』



彼は僕を見てフッと柔らかく微笑んだ


『え……、セフン君の好きな人も男の人……?』
『はい。だから僕たちうまく行くと思うんですけど、どうですか?』
『…えぇっ…、いや、………あの』
『あはは、冗談ですよ』



そのあと彼に話を聞いてもらった僕は
幾分気持ちが楽になり、
少し恐いけど、明日はチャニョルのいるあの店に行くことを決意した


『先輩、明日頑張ってくださいね』
『…うん、…今日はありがとう』
『いえ、気をつけて……………あ、』



手を振り、背中を見せ離れようとした彼は
また僕の方へと歩いて来る


『…?』



優しく引き寄せられた次の瞬間
ガバッとセフン君の腕の中に収められた


さっきまで僕の首に巻かれていたマフラーよりも
もっとずっと濃いセフン君の香りに包まれる


僕はそれに少なからず勇気を貰っていることを
セフン君はわかってやっているんだろうか



だとしたら本当に彼は根っからのプレイボーイで、
世の中の女性がこれ以上セフン君の被害を受けないように


余計なお世話だと思うけど


早く本気の恋をして落ち着くことを願った




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