book


□メリークリスマス
2ページ/4ページ




翌日になってもまだ僕の気持ちは収まらず
一人で苛立ちと葛藤し、暇を持て余していた



。。。電話もメールもない



今までは喧嘩しても必ずチャニョルから連絡が来ていた
だから今回も来ると思ったけど



連絡もして来ないってことは
悪いなんて思ってないからだよな


それがまた頭に来る



もう知らない
僕からは絶対に連絡なんかしないし

来たとしてもシカトしてやる



そう心に決め、
気分転換に映画を見に行くことにした




さすが休日だけあり
映画館はたくさんの人で賑わっていた



ふとあいつから連絡が来てないかと
スマホをチェックしてしまう自分に嫌気がさしながら
映画の時間を調べていると

すぐ近くで口論しているカップルが目に入った



しばらくその口論に耳を傾けていると
どうやら喧嘩が原因で
彼女が怒り映画を観ないと言っているようだった




『もうセフン君なんか知らない!』



彼女が呼んだその名前に聞き覚えがあった僕は
すぐに彼氏の方を見た



。。。そこにいたのは間違いなく
同じ会社の後輩だった




。。。わぁこんな所で会うなんて……
しかもすごいとこに居合わせちゃったな


声を掛けようにも
実はあまり喋ったこともないから
少し戸惑った


そうこうするうちに彼女だけが映画館を出て行き
残されたセフン君はくるっと僕の居る方へ向く



。。。。あ



ばっちり目が合ってしまいドキっとする



『ギョンス…先輩!』



思ったよりも気さくに名前を呼ばれ、
僕も控えめに手を上げて挨拶した



『ぐ、偶然だね』
『ほんとですね!あー……、今の、見てました?』


彼は気まずそうに頭を掻きながら
背の低い僕に目線を合わせた


『…うん、見るつもりはなかったんだけど……ごめん』
『っはは、いいんです。もう連絡取りませんから』
『え、別れちゃったの…?』
『いえ、もともと付き合ってなかったんですよ』


ニコニコと話す彼に
さっきまでの喧嘩を引きずる様子はなかった




『先輩、ひとりですか?』
『…え、あ、うん、』
『あの、良かったら………』


目の前に彼が出して見せたのは
僕が観たいと思っていた映画のチケット


『一緒に観ませんか?』
『え、…でも』
『もう、二枚買っちゃってあるし…
先輩が嫌じゃなかったら』
『……彼女は??』
『ふふ、だから彼女じゃないですってば』



彼は目を細くして笑った



『……そっか…、じゃ、お言葉に甘えて』
『よかった…。あ、もう開場してるから入らないと』


腕時計を見た彼が
行きましょう、と僕の肩を抱き寄せた



。。。そんなに背は変わらないのかな
彼を見上げて、またチャニョルを思い出してしまった







『先輩、一人で映画とか観るんですね〜』



映画を見終わり
カフェに入った僕たちは
感想を言い合っていた



『うん、僕けっこう一人好きだから』
『あ〜わかります、会社でも一匹狼ですよね』
『…え、そうかな?』


コーヒーのカップを口に運びながらコクコクと頷く彼


『でも、今日先輩に会えてよかったな』
『え?』
『会社の人も知らない休日の先輩を
一番下っ端の僕が知れたんですもん』




可愛らしく微笑む彼に
自然と僕も笑顔になった



『先輩、彼女は?』
『んーケンカ中』
『え!?居るんですか彼女!』
『ふふ、失礼だな、居るよ一応』
『な〜んだそっか、』
『セフン君は?』
『彼女はいないけど、遊ぶ女の子はた〜くさん居ますよ』


ははは、と笑う彼だけど
さっきの出来事含め
なんとなく冗談じゃないのがわかった



『セフン君、モテるだろうね』
『ふふ、僕は特定の彼女を作らないんです』
『なんで?』
『んーー楽だから、ですかね』
『ふーん…楽……ねぇ』



今の僕は
すべてチャニョルと僕に当て嵌めてしまう


僕たちが付き合わないで
遊びでたまに会うだけだったら………


。。。チャニョルはその方がいいのかもしれない
昨日の喧嘩で、あいつにとって僕の存在理由は
世間一般の恋人に当てはまるのものなのか
信じられなくなってきていた



『先輩、考え事ですか?』
『えっ、あ…ごめん』


前に座る彼にじっと見つめられて
余計な考えを追い払うように首を横に振った


『…あ、先輩僕そろそろ行きますね!夜行くところあって』
『あ、うん、また会社でね』


にこやかにその場を立ち去った彼の後ろ姿を目で追った

長身細身でシャープな顔立ち
話しているときにたまに見せる
あどけない笑顔がまさしく年下、という印象だった


チャニョルは長身だけど幼児体型だからな…
誰にも負けない位イケメンだけど



またチャニョルを思い出している自分に
深いため息をついた


久々に取り出したスマホに
やっぱりあいつからの通知はなかった





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ