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□10+1+@
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Day 3




彼は優秀な後輩だった


その日も教えたことを卒なくこなし、
僕は彼を定時で上がらせた


他の社員も帰り始め、僕もそろそろ上がろうかとデスク周りを片付けていると、ひとつの付箋がPCの影に落ちているのが見えた

なんだっけ…?



『………あ!』



それは自分で何日か前に書いた、会議の日程が早まった知らせ



……資料作るの忘れてた……



運悪く会議は翌日で、今日中には製本を終わらせなきゃ間に合わない


……残業決定



しょうがない、忘れてたの僕だし…



ひとり、またひとりと帰っていき

電気も必要最低限になった頃、ようやく8割が出来たところだった



静かな部屋に僕のPCのサーバー音とタイピングするキーボードの音が響く



『先輩』
『…!!』

ビクッとして声の方を見ると

そこにはとっくに上がったはずの彼が


『…あれ?どうして…』
『先輩こそ。残業あるなら言ってくれれば手伝うのに』
『…あ、これ忘れてて…。明日必要な書類だったんだけど』
『…手伝いますよ』
『あ、いや、悪いよ』
『何がですか?先輩の仕事手伝うのは当然です』


彼はズカズカと遠慮なしに僕の隣のPCの電源を押す


『…あ、いや、』
『?』
『後もうちょっとでできるから、その後の…製本手伝ってくれる…?』


僕の目を真っ直ぐに見た彼は少し間をあけて


わかりました、と隣に座った



またキーボードとマウスの音が響き始め、僕も早く終わらすために画面だけに集中した____かったのだが





『……キム君』
『はい』
『…あんま見ないでくれる』
『え、あ…見てるの気づいてました?』
『気付くよ、ずっとなんだから。』


隣に座ってからずっと、例のあの視線


昨日その話したばっかりなのに
よくそんなに何十秒も躊躇なく人のことを見れるよな…と変に感心してしまった



すいません、なんて照れ笑いをした彼は、
懲りずにまた縦ひじをついて横の僕を見つめ始める



『……いや今!たった今やめてって言いましたよね』
『あはははwごめんなさいw
先輩があまりに可愛いので』
『…そ、それ!』
『?』
『3回目ですけど…からかうのやめてもらえますか』
『…なにがですか?』
『え、…その、可愛いって言うの』
『あぁ、からかってないです。本当に可愛いですから。』
『…………………………』



絶句、とはこういう事を言うのだ


彼は冗談でもからかってる訳でもなく、
本心で言っているらしい




『先輩?手が止まってます』
『…えっ、あ、はい。…じゃなくて!これはキム君が…』
『ははwもう見ないので続けて下さい。俺コーヒー入れてきます』


年下なのに一枚も二枚も上手のような彼に振り回され、少し悔しさを覚えた


『…よし。終わった…あとは製本。キム君、あっちのプリンターにこれ出てるはずだから全部持ってきて』
『はい』

その後は2人という事もあり
あっという間に製本まで終わらせることができた





『ありがとう、おかげで早く終わったよ』
『いえ…、お疲れ様でした』
『うん、もう帰って大丈夫。また明日』
『…先輩!』
『?』
『俺の恋人になってみませんか?』
『は……!?』



と、ここで冒頭に戻るのだ____




『え………え?こ、恋人…?』
『はい』

聞き間違い…じゃないんだ


『え…な、なんで…?』
『先輩、すごく魅力的だし、
彼女いないって言ってたじゃないですか』
『…いや 、確かに居ないけど………』



頭の中で疑問符が飛び回る



『ま、待って!知り合ってまだ3日だよ?』
『はい。でも俺、ずっと先輩の事知ってましたよ』
『…え。』
『ずっと話してみたいなって思ってたんです。だから先輩に仕事教えてもらえることになって嬉しかったんですよ』
『はぁ…、それはどうも…。いや…で、でも、恋人になるって……、事は………え?』
『ははw先輩が思った通りの人で良かった』
『え、いや、あの、近いんですけど…』




彼は話しながら少しずつ僕との距離を縮め、
僕の背中は壁にぶつかった



彼の顔がすぐ近くで落ち着かない
どこを見ればいいのか目が泳ぐ



なんだっけ、あまり親しくない人は45cm以内の距離にいると不快に感じるって…確か前テレビで………
いやこれ45cmどころじゃないし

じゃなくてこんなのおかしい…!


『や…、やめてください!』


僕は両手で彼を押し
お疲れ様でしたと言い捨て、
1人でバタバタとオフィスを出てきてしまった


その後駅まで走ったせいもあり
電車に乗ってもしばらく心臓がバクバク鳴っていた

僕、あのままだったらどうなってたんだろう

キムジョンイン…彼はどんな人なんだろう





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