黒執事

□お仕事
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今日は葬儀屋に呼ばれた。何故呼ばれたかは分からないが、私は彼の元へ向かった。全く、死体の何処が美しいのやら……。女王陛下と良い、人間とはつくづく馬鹿な生き物だな。

「おやぁ、遅かったねぇ」
「申し訳ありません。女王陛下がなかなかお休みになられなかったので。それで……ご要件は?」
アンダーテイカー事この葬儀屋は、シエル様と親しいと聞いているが、私には何故あの様な高貴な方がこんなのと知り合いなのかが、理解出来ない。
「死体がね、足りないんだ」
「足りない……。盗まれたのですか?」
「ああ、恐らくね。死体を積んだ馬車が何者かに襲われて、その死体を盗んだとか何とか」
「………何故私に?シエル様に頼まなかったのですか?」
「頼みたかったさ。けどね彼は他の用事があるらしい。だから君を呼んだのさ。死神とも仲の良い君をね」
………この男。一体何処まで私の正体を知っているんだろう。まさか、天使と言う事が知れているのでは?まさか。
「報酬は弾むよ。頼むよ」
「………はいはい」
私はその薄汚い葬儀屋を出た。相変わらず、穢れている。何処かでさっさと清めたいが……死体回収となると、また穢れるから、このままで良いか。厄介な仕事を押し付けられたものだ。待たせていた馬車を先に帰らせ、私は情報収集に向かう事にした。

子供は素直で良い。人間は大嫌いだが、何も知らない無垢な子供は嫌いではない。私は大人に聞くよりも、子供からその話を集めていた。
「なんかね、お巡りさんが焦ってるんだよ。その、盗まれちゃったのが呪われてるとかで……」
「呪い、ねぇ……」
そこでその少年とは別れた。その時だった。聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「お前、確か……アッシュ」
「これはシエル様。何故、このような場所に……」
「それはこっちの台詞だ。お前こそ何をしている」
丁度良い。この餓鬼を利用して、さっさと仕事を終わらせよう。そうすれば私の手も汚れずに済む。
「実はですね……」
今までの経緯を彼に話した。


すると興味を持ったのか、話に乗って来た。
「僕もその事について、調べてやる」
「左様で御座いますか。助かります」
「セバスチャン、お前は女達から情報収集して来い」
「御意」
………あぁ、そうだったか。この執事、悪魔だから人間を魅了する力を持っているのか。
「僕はこいつと一緒に子供達からもう少し情報収集をする」
「坊ちゃん?」
「何だ、不満なのか?」
「いえ……。ではアッシュさん、坊ちゃんを、宜しくお願いします」
「任せて下さい。一切の危害は加えませんと誓います」
そう、彼に死なれては困る。私の描くエンディングには、彼が必要だからね。


「これだけ情報が集まったんだ。後はセバスチャンとの情報と合わせれば、見つかるだろう」
「そうですね」
「それにしても、呪いの死体、か。僕の周りには、呪いが多いな」
「ふふっ。シエル様には、死神でも取り付いているのでは?」
「………死神、か。まぁ、近いものなら付いているがな」
あの執事か。ふっ、そうだな。そんな時、セバスチャンさんが帰って来た。そして彼から情報を聞いた。
そうしたら、一つの廃墟の教会が絞られた。
「ここか……」
「随分とまぁ、壊れてますね。こんな所に人間など、居るのでしょうか」
「………気配はします。多分、地下とか……」
良くある話だ。教会の地下で儀式をやる為に死体を盗むのは。だが呪われた死体を盗んだら、その盗んだ者も呪われるのではないだろうか。私達は疑いながらも、その教会へと入って行った。


「アッシュの言った通りだな。地下への階段がある」
「やはり……」
「さっさと死体を回収して、アンダーテイカーに届けるぞ」
淡々とその階段を降りて行くシエル様。彼には恐怖と言うものがないのだろうか。不思議でたまらない。まぁ、あんな過去があれば恐怖など、打ち砕かれるか。


案の定、地下には沢山の死体があった。それも膨大な数。臭いも悪臭しかしない。私にはとても居られない場所だ。
「………おい、アッシュ。お前は上で待ってろ」
「え?ですが……」
「女王の執事が、悪臭を身体に身に纏っていたら、女王陛下が嫌がるだろう」
「………すみません。後は頼みます」
助かった。シエル様に感謝だな。私は急いで上へと避難した。だがそこには、奴が居た。
「アンジェラ……」
「あら、アッシュじゃないですか。こんな所に何のようです?」
「………貴女が犯人ですか」
「まぁ怖い顔を。私は何もしてませんわ。ただ人間にアドバイスをしただけですよ」
「アドバイス……」
それがこれだと言うのか。こいつの心は不浄で満たされている。早急に地獄に送らなくては……。私はサーベルを抜こうとした。だがアンジェラは翼を出し、飛び去ろうとしていた。
「あなた方が来たとなれば、私は邪魔でしょう。さようなら」
「待て!!」
だが逃げられてしまった。くそ、不覚な……。そんな時、地下からシエル様達が出て来た。
「………何かあったのか?話し声が聞こえたが……」
「いえ……。それよりも、犯人はいましたか?」
「ああ。悪魔の儀式をやっていた。それで、呪われた死体が必要だったと白状した。これからヤードに渡す」
人間の複数の気配を感じ取ったので、ヤードがすぐそこに来ている事は分かったが、いつの間に……。
「報酬はお前が貰うと良い。僕はただ、暇潰しに付き合っただけだ」
「本当にありがとうございました」
私は過ぎ去るシエル様を見て、一礼をした。


そして葬儀屋にそれらの死体を渡した。
「ヒッヒッヒ。助かったよ」
「はぁ………」
「ほら、報酬だ」
そう言って彼が私に渡して来た物は、金色に光るネックレスだ。
「これは……」
「それは死体が置いて行った遺品さ。あぁ、安心しな。ちゃーんと綺麗に洗ってあるから。何でも、元は天使が持っていた物らしいよ」
っ!この男、やはり私の正体に……。だが私の計画を邪魔する気はなさそうだ。そのままにしておくか。
「だから十字架、ですか」
「ああ。まぁ、女王様にはこの事は黙っておいた方が良いと思うけどねぇ」
「言われなくても、黙っておきますよ」
嫌な笑い方をして来たので、私は葬儀屋を出た。
天使が持っていた十字架、か……。これなら私が持っていていても、問題は無い。私はそのネックレスをし、服の中に隠した。万が一女王陛下に見つかっても、十字架なら問題ない。誰から貰ったと聞かれたら、シエル様から、と言えば良いだろう。
あぁ、そろそろ帰らなくては。穢れた身体を、服を、早く替えたい。
今夜も月が綺麗だ。








END

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