長編

□paradox
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カタカタ
カタカタ……
キーボードを叩く音だけが響くCCGの事務室。点滅するディスプレイを眺め、戦ったグールの記録をデータ化する作業に追われていた

鈴屋什造
…××区のグールを殲滅……
単独での行動……
……


きっかけは、ほんの些細なことだった。仕事上よくお世話になる篠原特等にバレンタインのクッキーをプレゼントした。

「篠原特等、いつもありがとうございます。これ良かったらどうぞ」
「お!ありがとうななまえちゃん。什造に見つからないように食べるよ」
わはは、と笑いながらポケットにしまわれたそのクッキーは、20分後に什造に見つかり食べられてしまう運命を辿った。

什造はクッキーを大層気に入り、篠原に食い気味に尋ねた。
「このクッキーどこで買ったです?今から買いに行きます」

「お前なぁ、人が貰ったクッキー食っといて、その上仕事サボって買いに行くって言うのか?」
呆れた篠原の顔を見ても全く動じることなく、
「もらったです?誰からですか?僕も貰いに行きます」

篠原特等は、頭を抱えながら
「ふー。なまえちゃん、知ってるか?事務の。お願いしたら、また作ってくれるかも知れんが……」
「じゃあ、ちょっと貰いに行きますかね〜」
「待て待て、おい!ちょっと!」


ガラッ
「あなたが、なまえさんです〜?クッキー貰いにきました」
突然の来訪者に驚き、キーボードを持つ手が止まる。一瞬思考が止まったが、にこにこ顔のこの男の子は……赤い糸のボディステッチに白い髪、篠原特等のパートナーだと思い出し、クッキーも篠原特等に聞いて貰いにきたのかと想像を巡らせた。

「あー、クッキーね、もう無いんだ。明日で良ければ作って来てあげるよ」
「わーい!約束ですよ!明日また貰いに来ますからね〜」
天使のような笑顔で手を振り去っていく。私は、半笑いで手を振り返したのだった。
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