短編

□烏〜prelude〜
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「なまえさん好きですー。セードーなんかやめて僕と付き合いましょーよー」

「だ、だめだよ。それは出来ないよ」



――
政道くんの彼女として鈴屋くんに紹介されたのは1週間前。
はじめまして、とお辞儀をすると鈴屋くんは驚いたような、何かを見つけたようなきらきらした目で私をじっと見ていた。

その日から、鈴屋くんは何故か毎日私に会いにやってきた。理由を聞いてもはぐらかされたり、えへへ〜と笑って誤魔化されたりしていたけど、女の子みたいに可愛らしかったので、特に男の子だって意識もせず、相手をしてあげた。

無邪気な笑顔で懐いてくる鈴屋くんが可愛いなぁと、少し情がわき始めた時のこと――


「なまえさんって、いい匂いがするです〜」

「え?そうかな」

CCGのベンチに並んで腰掛けた什造が、手に私の髪を掬い鼻を近づけた。
「甘〜い、いい匂いです…」


什造が距離を詰めてきたので私も距離を取ろうとすると、ずい、とさらに距離を詰め顔を近づけてきた。
突然の事に驚いて目をぱちくりさせると、出会ったときと同じきらきらした瞳で私を見つめる

「なまえさんの唇ってぷるぷるでおかしみたいですねぇ…」


素早く顔が近づき、ちゅっという音を立てて唇が合わさった。
びっくりして何も言えないでいると

「うふふ、キスしちゃいました。セードーに怒られますかねぇ」

「……」


まさか、キスをされるなんて思いもしなかった。
今まで私に訳もなく会いに来てたのはそういう事だったのかと、什造くんもやっぱり男の子なんだと初めて意識した。
不思議と、嫌悪感は全くなかった。むしろこれは――

とにかく何か喋らなきゃ。
ほてる頬を隠すように、宙を見上げた。

「そ、そりゃあ怒られちゃうよ。ここ陰になってるから周りからは見えないけど、そこら中にカメラあるし、バレるのも時間の問題だと思うよ…」

妙に他人事のような言い方をしてしまったなぁと考えながら什造の方を窺い見ると、頬を染めて少しはにかんだ表情でこちらを見ていた。


「どーせ怒られるなら、もっとしたいです……」

少し強引に体を引き寄せられ、再び唇が合わさった。

「ん…」

柔らかく強く何度も合わさる唇に、ダメだと思いつつも抵抗できなかった。
時折もれる息遣いが、薄く開けた瞼が、私を捉えて離さない


「…あは、全然嫌がりませんねぇ」

舌で唇をなぞられ、少しくすぐったい。上唇と下唇の合わさるところをチロチロと刺激され、自然と開いた口の中へ舌が侵入してきた。
恐る恐る舌を伸ばすと素早く絡みとられ、理性も飛んでった。


――

「あ、ジューゾーいましたよ!キキ、キスしてます……」

「キ、キス!?」


こっそり物陰から覗く亜門、篠原。
二人の舌が入り乱れる光景をじっと見守っていた。

「うわ、こんなとこでまぁ」

「しかし、あの娘政道の彼女じゃないですか?」

「ほんと?」


什造が視線に気付き、舌を絡めたまま横目で二人を見ると、諦めたように立ち上がり二人に声をかけた。

「二人で覗きです?」

「会議始められないから探してたんだよ。お前なぁ…昼寝とかならまだ良かったけど」

「全く、仕事中にイチャイチャと…」

亜門が頭を抱えた。
私はというと、恥ずかしくて二人の方を見れなかった。
呆れた顔をした篠原が、ため息を吐いた。

「しかも、その子政道の彼女だろ?」

「そんなのどーでもいいです。セードーは手も繋げないらしいですから、僕が奪っちゃいます」
へら〜と楽天的な顔で笑った。

「政道には言わないでおくけど、伝わるだろうな。カメラあるし」

「兎に角、会議だ。什造行くぞ」




それから毎日、鈴屋くんは会いに来るたび口癖のように「好きですー」とか「付き合いましょーよー」と言い続けた。

波打つ心を政道くんは知らない


fin 
〜烏へ

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