短編

□chocolatier
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珍しいことに、什造はひとりキッチンに立っていた。


「ボウルにお湯を入れて湯せん…ゆせん?お湯に漬けるです?」

ドポン、とお湯の中に沈められたチョコは溶け出し、ぐるぐるかき混ぜると茶色い液体ができた。

「これを冷蔵庫で冷やすと固まるって書いてますねぇ」

冷蔵庫にボウルを入れ、しばらくして中を見ると、お世辞にもチョコとは云えない薄いままの液体が。

「間違ったですかね?」


もう一度、お湯を沸かして今度はなまえに電話した。

「もしも〜しなまえさん?」
「什造くん、どうしたの?」

「ゆせんってなんです?」
「ゆせんって、お料理の?」
「そうです」

「もしかしてチョコレート作ってるの?」
「……ノーコメントです」


湯せんのやり方を教わって、今度は慎重にボウルに入れたチョコレートをお湯に漬けた。

「おぉ、溶けてきましたねぇ」

ぐるぐるとかき回すと、さらにドロドロに。


「さぁて。ここからです」
恋のおまじないBOOKとピンクの文字で書かれた本を取り出すと、チョコの付いた手をぺろりと舐め、パラパラとページをめくる。

「うふふ、好きな人をトリコにさせるおまじない……」

近くにあった包丁を握ると、自らの腕に切りつけた。
血がぽた、ぽたと滴る。

「こーれーを♪」

腕をボウルの上にかざし、滴る血をチョコに入れた。
が、すぐに血は止まり

「これじゃ、全然足りないですね」


包丁を握りなおし、今度はもっと深く広く切りつける。
腕から流れる血を急いでボウルに注ぐと、満足そうな笑みをこぼした。

「沢山入っていたほうが、もっと僕のこと好きになりますかねぇ」


さく、さく、と次々に切りつけてはボウルに血を注ぐ。

「なまえさん……」


むせ返るような甘い匂いと鉄の匂いに包まれた台所で、繰り返されるアイのための自傷を什造はものすごく幸せなものに感じていた。

「毎日会いたいなんて言われてしまったらどうしましょうかね。捜査官のお仕事もありますからねェ〜♪」

鼻歌交じりでなまえの事を考えながらの作業は続く。
ボウルに入れすぎた血に気付くのは、それからまだ3回も腕を切りつけた後であった。




「あれ?什造くん、今日は珍しく腕まくりしてないね。それで渡したいものって?」
「うふふ、チョコレートです」




fin

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