短編
□aurore
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ある日の真夜中のこと。
二人でお菓子を食べながら、だらだらテレビを見ていると什造が、
「何か面白いことないですかねェ」
と呟いた。
「面白いことねぇ……」
と気の抜けた返事をすると、CMが流れた。
イケメン俳優が綺麗な女優さんをバイクの後ろに乗せ、海岸を颯爽と駆けていく。最後に夕焼けをバックに、海辺でキスをする二人。
絵になるねぇ、なんて呟くと什造が突然立ち上がった。
「なまえさん!僕たちもあれしましょう!」
「え!?バイクないし無理だよ」
「ありますよ〜お菓子で動くバイクが!」
什造の自転車の後ろに乗り、夜更けの街をひた走る。
「什造くん、捜査官が二人乗りはまずいよ」
「それじゃ〜朝焼けを見に行くです」
全然聞いていない様子で、力強くペダルを漕ぐ。
遠くの方にマンションの規則正しく並んだ灯りや、ビルの上に点滅する赤い光が、次々に流れていく。
皆が寝静まった時間に人の灯す明かりを見ると安心するのは何故なんだろう。
今、この世界にいるのは私達だけではなくて、日々の営みはいつでも繰り返されているのだと確かめることで、孤独ではないのだと気付かされるのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていると、向こうからパトカーが走ってくるのが見えた。
「什造くん、警察だ」
「ですねぇ。めんどくさいので曲がっちゃいますか。僕の腰に掴まってて下さい」
什造の腰に掴まると、キュキュ!と横道にそれた。
曲がりきったかと思うと、すごい坂が待ち受けていたのだった。しゃかしゃかと自転車を力いっぱい漕ぐと、そのままのスピードで坂を下り始めた。ぐんぐんスピードを上げる自転車。
「ぃやっほ〜!」
「きゃあああ什造くん、ブレーキ、ブレーキ!!」
信号は青、青、青
スピードを落とすことなく突き進む自転車。
「気持ちいいですね〜!」
「怖いってば!スピード落としてえ」
スマホを見ながら歩いていたサラリーマンが、驚いて私達を見た。
やっと変わった信号、急ブレーキの衝撃で什造くんにぎゅっと抱きついた。
「死ぬかと思った……」
「うふふ、死ぬときは僕と一緒です!」
冗談に聞こえない。
それから、コンビニに立ち寄りジュースを買って飲んだ。
仄暗い空の向こうが、少し明るくなっている。
「空の向こう見て。夜明けが近いよ」
「おや〜思ったより早いですねぇ。急ぎますか」
急ぎ足で自転車に跨ると、勢いよく自転車を漕ぎ出した。
「ねぇ、まさか海まで行くの?」
「そうですよ!急がないと日が昇っちゃうです」