短編

□Birthday
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6月8日は什造くんの誕生日。
二人が付き合って初めて迎える誕生日なので、今日は私がデートコースを考えている。

待ち合わせは、朝9時に駅の改札前で待ち合わせ・・・
の、はずが、10時を回った現在も什造は待ち合わせ場所に現れなかった。
電話もLINEも応答なし。
一体どうしちゃったんだろう。
心配になって、留守電を何度も残す。

行き交う人をぼんやり眺めること、さらに30分。
「すみませ〜〜〜〜ん!!!」
什造の声が遠くから響く。ぱたぱたと走る音が近づいてきた。

「什造くん、心配したよ。どうしたの?」
「寝坊です・・・目覚ましが鳴らなかったです。ごめんなさい・・・」
申し訳なさそうな顔をする什造。

「いいよ、今日の主役は什造くんだからそんなに謝らないで。さ、行こうよ」
主役、とぼそりとつぶやくと什造の顔がみるみる輝いた。
「はい!今日はどこに行くです?」
「へへ、楽しみにしててね。」

最初に向かったのは、パンケーキのお店。
10段重ねのパンケーキが売りのお店だ。

「う、わあーー!すごいですねぇ!」
現れた10段重ねのパンケーキに感嘆の声をあげる什造。
クリームも、フルーツも存分に乗っている。
立ち上がって、くるくるとパンケーキを見つめる。

「なまえさん、これ、二人で切りましょう」
「二人で?」
「そうです!これ結婚式のケーキみたいです」

什造くんの突然の思いつきは結婚式のケーキカットをやろうということだった。
少し恥ずかしいけど、今日は出来るだけ什造くんのしたいことを叶えてあげようと思って、店員さんに大きめの包丁をお借りした。
包丁を持つ手に、什造の白い手が添えられる。

「ぱんぱかぱーん!!いきますよ〜」
「うん!」

そっと切りこみを入れる。10枚分のパンケーキを倒さないように、慎重に切り込みを入れる。
しかし
「うわわ、」
「わぁ!」
「崩れちゃいましたねぇ」
「崩れちゃったね」

二人して、あははと笑った。結果パンケーキは崩れてしまったが、什造は満足そうな顔でパンケーキを頬張っていた。

「ほら、なまえさん。あ〜ん」
「あ〜ん・・・」
はにかみながらも口を開けると、フォークに刺さったパンケーキをぱくっと口に咥え、そのまま私の口にうつした。
甘いクリームの味が口の中に広がる。

「うふふ、僕にも、あ〜んってして下さい」
口を開けて待つ什造くんに、フォークに刺したパンケーキを食べさせてあげた。
「美味しいですけど、なまえさんのお口からいただきたかったですねぇ」
「あ、あとでまた、ね」
なんとかごまかして、パンケーキのお店を後にした。
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