保管庫

□それぞれの形
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『旦那ぁ、居るー?』

暁のアジトの部屋の壁に体を預けて部屋の主に声をかける黒いマントの少女、秋乃。
その声にあからさまに無愛想な顔で振り向く男。

「何だ、秋乃。用が無いなら来るなって言ってんだろうが」

『いいじゃん別に、来る来ないは僕の自由だもん。そうでしょ?サソリ』

名前を呼ばれ、眉間の皺を深くする男、サソリは「邪魔だ、帰れ」と言うと向き直り、中断していた作業を再開する。
しかし、そこで帰る秋乃ではない。
勝手に中に入り、辺りを見回す。
部屋の中にはサソリが作った傀儡が並んでいる。棚には薬品もある。
しばらく見渡したあと、作業するサソリの手元を覗き込む。
すると、上げられた手には鋭く光るクナイが。

「帰れって言ったのが聞こえなかったのか」

サソリの言葉に両手を上げて降参のポーズをとり、『聞こえてます』と告げる。が、口元には笑みが浮かんでいる。
サソリはクナイをしまうと、今度は何も言わずに作業を続ける。
口では色々言いつつも秋乃には甘いのだ。
それを知っているから秋乃も相棒の大剣を自室において、体で一つでここへやって来るのだ。

『ねぇねぇ、僕の傀儡も作ってよ』

「めんどくせぇ」

『僕みたいな傀儡があれば戦いも有利になると思うよ?』

「テメェみたいなでかい刀の傀儡なんざ邪魔なだけだ」

笑顔で提案する秋乃の意見を一掃するサソリ。
たとえ傀儡でも好きな人が傷つくのは嫌なのだ。

『旦那のケチ』

そんなサソリの気持ちを知ってか知らずか秋乃は赤い舌を出す。
自分の気持ちに素直じゃない二人は今日もこうして嫌味を言いあう。
それが彼らなりの愛の形なのかもしれない。

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