排球
□プロローグ
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日向side
俺がそいつに会ったのはGW合宿を終えてすぐだった。
いつも通り部活に向かおうと全力疾走していた時。
体育館に向かっていたら女子が使う方の体育館の方から男の笑い声と何かを殴るような音がした。
幸い遅刻してるわけでもなかったから何だか気になってしまってこっそり見に行った。
体育館裏の方から聞こえる声に足を忍ばせてゆっくりと覗き見る。
そこには制服を着崩した……多分先輩?だろうか。
ガラの悪そうな人が3人位いてよくみると足元には学ランを着た黒髪の男子が見えた。
瞬間先輩の一人がそいつの顔面を蹴りあげてけらけら笑いだした。
一瞬ぽかんとして視線を外し、ばくばくとなる心臓を押さえた。
いじめだ……。
初めて見た。
自分とは無縁のそれに何故だか後ろめたさと蹴られた男子を可哀想に思った。
何で暴力を振るうのかは知らないけど一方的に殴られていたのか男子は制服はボロボロだったし怪我もしているだろう。
助けるべきなのだろうか……とは言っても俺の力では先輩達には勝てないし、巻き添えをくらったら大会も近いし怒られてしまうかもしれない。
もう一度見てみたら男子は先輩に髪を掴まれ何かを言われてる様子だ。
ぐったりしている彼はもう話す気力もないのかされるがままだった。
今、ここで彼を助けなかったら彼はどうなるんだろうか。
もっと殴られる?
どうしたら……
その時ぴん、とあることを閃いて大きく息を吸った。
「金崎先生ー!こっちです!!こっちで男子が殴られてますーーっ!」
ありったけの大声でそう叫んだ。
さっきまで笑っていた先輩達の焦る声が聞こえて、その後バタバタ走る音が聞こえた。
裏門からもう学校から出ていってくれていたら良いんだけど……とチラリと見てみると先輩達の姿は周りになくて殴られていた男の子だけがコンクリートの上に横たわっていた。
まさか上手く行くなんて思っていなくてホッとする。
勿論先生なんていないし、来ない。
慌てて男子の所に向かうと外靴で蹴られていたのか制服は泥がついていて、頬は殴られたのか赤くなっていた。
「だ、大丈夫……?」
恐る恐る声をかけるとピクリと肩を鳴らしてゆっくりと起き上がった。
「っつ……」
途端に鼻を手で抑えた後にボタボタと手の隙間から赤い血が見えた。
「えっ!!血!?」
一瞬驚いたけどすぐに鼻血だと気付いてあわあわと手を右往左往に動かしてしまう。
ど、どーしよ!血が止まんないし、いやでも対処の仕方なんて……!!
「日向?さっきすごい声が聞こえて……」
「スガさんんん!!血が!!血、鼻血!!」
後ろから聞こえた声に救世主だと目を輝かせて上ずった声で名前を呼んだ。
「その人誰……だ……」
「さっきな、殴られてて!!怪我してて!!助けてください!!」
「日向が慌ててどうすんだ……君大丈夫?」
スガさんも慌てた様子でポケットからポケットティッシュを取りだし数枚無造作に掴み男子の鼻元に持っていく。
白いティッシュが直ぐに真っ赤に染まっていく中とりあえず部室!部室行くぞ!と男子をゆっくりと立たせて言うスガさんにスガさんの荷物と男子の傍らに無造作に放り投げられていたリュックをひっつかみ後を追う。
「大丈夫か?」
「直ぐ部室だからな!ティッシュ俺のも!」
ポケットからティッシュを取りだしてスガさんに渡す。
そう、こんな慌ただしい出会いだった。