大吉


※『セレナーデは聞こえない』
※R12
※夢主=◯◯表記



「◯◯さん、リラックスしてください」

天馬の大きな掌が◯◯の腹部を覆っている。

指輪を外した彼の手から伝わる体温は意外と高いというのにさっきからビクビクと震えてしまうのは、女性にとってお腹は特に大事な所で案外そこは日常生活で他人に触れられる事のない場所なので、例え服越しでも神経が過敏になってしまうからだ。

「◯◯さん……もしかして怖い?」

掌から伝わる振動の原因を、天馬が心配そうに問いかける。

「怖いというか、……緊張する」

「嫌じゃない?」

「……うん」

よかった。と、背後の天馬が安堵の溜息を吐くと◯◯の耳の裏に生ぬるい息がかかってドキリとしてしまう。

例え異性で体格が良くても少し前まで高校生だった子の膝の上というのはやはり落ち着かなくて、「重くない?」何度目か数え切れない◯◯からの同じ問いかけに対して事も無げに「余裕っス」と返す天馬に、◯◯は何だか情けなくなってきた。

「なんかごめんね、私の方が年上なのに」

「彼氏と彼女に上とか下とかねぇし気にしなくていい。相変わらず◯◯さん年齢のこと気にし過ぎ」

「……そうだね、ありがとう」

最近天馬は◯◯へのタメ口が少しだけ増えた。

以前からちゃんとした敬語を喋るような性格でもなかったが、同年代とそれ以外への接し方にそれなりの差はあった。

大人への警戒心が強い印象だった天馬が◯◯にだけ他人行儀からフランクな態度を取るようになり、◯◯だってちゃんと天馬が好きなので特別である事が実感出来て嬉しかった。

「セッ……そういう行為に関しては俺の方がいくらか詳しいから任せてください。まずは少しずつ空気?つーか雰囲気に慣れる事からスタートするんで」

「具体的には、何するの……?」

「普通にイチャイチャするだけ。いや、ちょっと触るけど直接的にエロい事はしないんで」

「でも、」

……さっきから、尻の辺りに当たってるのだ。硬い感触が。

いくら◯◯が男性経験のない処女でも、それが何なのか、どうしてこうなっているのかくらいは知識として知っている。

◯◯の言わんとしている内容を察し、天馬は「あー……これはセイリゲンショーなんで、気にしない方向で。ほっときゃ治るし」なんて苦笑する。

こんなにはっきり肉体に変化があらわれていながら平気な訳がない。きっと、すごく辛抱してくれているのだ。

相変わらず我慢強い子だ。

ここで◯◯から「我慢しなくていい」と言えればいいのに。勇気を出して◯◯の方から誘ったとはいえ前職でのトラウマもあって中々思い通りにはいかない。そんな◯◯の葛藤を見透かした上で、天馬は無理に本番行為を強いたりしないのだ。

「俺がしっかりリードするんで、◯◯さんは安心してください」

「天馬くん……大好き」

愛しさが溢れ、振り向いて微笑む◯◯に対して。

俺の理性頑張れよ!

と天馬は密かに己を鼓舞するのだった。

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