クリスマス企画

□二人っきりのメリークリスマス
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「……一応、クリスマスプレゼントがある、というか、」


ケーキを平らげた後、紅雄は照れ臭そうに切り出した。

嘉帆は自分が何もプレゼントを準備していなかったことに気が付いて焦ったが、紅雄は「材料費とかかかってるし、お前からはケーキだけで十分だよ」とフォローをしてくれた。その優しさに胸がいっぱいになる。


「少し不恰好だけど……」


と、紅雄が取り出した物は、ピンクの不織布と赤いリボンで綺麗にラッピングされていた。

開けてもいいかと嘉帆が訊くと紅雄は緊張した様子で頷いた。

ドキドキしながら梱包を解くと。


「猫さん」


勿論本物ではない。フェルトで出来た白猫のぬいぐるみだ。

目の位置が左右ズレていて異様に鼻が大きくお世辞にもすごく可愛いとは言えなかったが、紅雄が作ったというだけで大層気に入った嘉帆は赤い瞳を蕩けさせ、表情をほころばせた。


「これ、紅雄くんが作ったの?」

「手芸部の女子から所々教わりながら……」


嘉帆の性格的にあまり金をかけたプレゼントをすると変に恐縮されてしまうのは目に見えていたので、低予算で初心者でも扱い易いというフェルトのぬいぐるみを作る事に決めたのだが、なにせ慣れないので最初はかなり難航した。

しかも毎回女子の間で誰が紅雄に教えるか争奪戦が起きて作業が遅れ、放課後一人で残ったりしてどうにかクリスマスに間に合ったのだ。


「ありがとう、すごく嬉しい……!」


何度見ても酷い出来の人形に気まずそうに目線をそらす紅雄に、嘉帆は嘘偽りのないお礼を口にした。

顔の横にぬいぐるみを並べ、「バイバイ」という感じに猫にしては太い前足を動かす様子は無邪気で可愛い。

まさかこんなに喜ばれるとは予想外だった。


「……どういたしまして」


紅雄は照れ隠しに、目よりも大きくなってしまった猫の鼻を摘まんだ。


「紅雄くん、本当にありがとう」

「どうしたんだよ、急に改まって」

「私、紅雄くんがいなかったら自分を見失ってたと思う。大袈裟とかじゃなくて取り返しのつかない事になってたかも。全部紅雄くんがいてくれたから私は、間違わずに済んだ。
だから、これからも――――」


紅雄を見つめる嘉帆の瞳はうっすら潤み、白い頬は薔薇色に染まっていた。

この流れはまさか……と紅雄の心音はオーケストラの最後に打ち鳴らされるシンバルのように高鳴った。

次に続くであろう言葉を自分勝手に予想して、こういうのは男の方から……と思ったり、心の準備が……と思ったりしている紅雄に嘉帆は告げた。


「ずっと、友達でいてね」

「…………、当然だろ……」


目の前の嘉帆の表情が曇ってしまわないよう、紅雄は顔が引きつらないようにするので精一杯だった。

もしかして遠回しに恋愛対象ではないと言われてしまったのではないかとつい悪い方に考えてしまいそうになるが、嘉帆の純度百パーセントの笑顔を前にすると心からの発言なのだと分かる。


「あ、外、雪が降ってる」


タイミングを見計らったかのように舞い落ちる結晶を眺めようと、ぬいぐるみを抱いたまま窓際に向かう彼女の後を追いながら紅雄は「もうしばらくはこのままで勘弁してやろう」と、こっそり苦笑した。


「来年もこうやって……紅雄くんと雪が見れたらいいな」

「あぁ、来年も一緒に見よう」


至高の吸血鬼の少女が恋心を自覚するのはもう少し先の話だ。



・・・MerryX'mas!

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