クリスマス企画
□二人っきりのメリークリスマス
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冬休みと言っても、部活動を理由に登校している生徒や教師も結構いるらしい。
流石に年末年始あたりになると休みになるのだろうが、運動部の幽霊部員の紅雄にはどのみち関係ない話だ。
色々なことがあったが、待ちに待った十二月二十五日。
時刻は十時過ぎ。
学校に私服で来るのはなんとなく気が引けたので紅雄が制服を着て生徒会室を訪ねると、出迎えた嘉帆も制服を着ていた。彼女の私服を期待していたので少し残念だった。
宣言していた通り、室内は折り紙や小物で飾り付けてあった。
そして部屋の隅には、冬休み前にはなかったクリスマスツリーが一際存在感を放っていた。
カラフルな電飾と雪を模した綿を纏い、紅雄の背丈程あるツリーの天辺には星が輝いている。
かなり立派なツリーなのでどうやって用意したのかと紅雄が聞くと、誰の私物かは不明で、物置になっている空き教室からバラバラになっていた物を持ってきて組み立てたのだと嘉帆は答えた。
……これだけ準備するにはかなり時間がかかったはずだ。片付ける時は絶対に手伝おうと紅雄は思った。
「あ、そろそろケーキ出すね」
DVDを観たり、二人っきりでカードゲームをしたりして遊んでいる内に時計はもう昼の一時前を指していた。
すっかり時間が経つのを忘れてしまった紅雄がカードを片付けている間に嘉帆は棚から二人分の取り皿とフォークを机に運び、冷蔵庫からケーキを取り出した。
目の前に置かれたそれに紅雄は「おおー」と、感嘆の声を上げていた。
大体五・六人分くらいの大きさをしたまん丸いガトーショコラには、ふんわりとした生クリームと大粒のイチゴが乗っている。
見た目からして物凄く美味しそうだった。
その上「はりきって作っちゃった」と、日頃自己主張をしない控えめな嘉帆にしては得意気に言うものだから、あまりにも可愛すぎて紅雄の口の中はケーキを食べる前から甘くなった。
「一応用意してあるけど、キャンドル立てる?」
「いや。挿すの勿体ないからこのままでいいや」
もし紅雄が携帯電話を所持していたら、間違いなくケーキを連写していただろう。
せめて目に焼き付けようと凝視する紅雄に、嘉帆は嬉しいような恥ずかしいような複雑な顔をしている。
「いただきます」
それから形を崩さないように慎重に切り分け、一口目を口を運んだ紅雄はそのまま二口目、三口目……と夢中になっていた。
――美味ッ!!なんだこれ、えっチョコケーキってこんな美味かったっけ。生地がずっしりしてるのにしっとりしてるっていうか……それに甘さの中にほんのり苦味があって、飽きずにいくらでも食べられそうだ……。
「どうかな?」
心配そうに感想を伺う嘉帆にハッとして、一先ず紅雄は手を止めた。
「今まで食べたことがないくらい、めちゃくちゃ美味い……!」
「紅雄くんの口に合ってよかった」
ほっとした嘉帆もやっと一口目を口に運ぶ。
モグモグと小さな口が動く様はリスやハムスターのようで愛らしい。
向かい合って座りケーキを食べていると、改めて嘉帆と二人でクリスマスを過ごしている実感が沸く。
紅雄は幸福感と共に口内のケーキを飲み込んだ。
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