クリスマス企画
□どうして
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「嘉帆、俺なら大丈夫だよ」
「紅雄、くん……」
「お前が思ってる程弱くねぇから……って言いたい所だけど、お前らと比べて、人間は弱いし脆い。でも、それは肉体の話だろ。知ってるか?人間の“思い”ってヤツはしつこい上に最強なんだぞ。場合によっちゃ歴史だって変えちまうんだ」
人の思いは複雑怪奇で、一人の人間の憎悪の感情が大国を滅ぼしたり、一人の人間の慈愛の心が瀕死の命を救ったりする。
だから兄の赫夜は人間が好きなのだと話していた。
愚かでも優しくて醜くても美しい。
そんな人間への興味は尽きないと、愛しいとまで言っていた。
嘉帆も、そう思う。
「俺は、これから先どんなに傷付いたとしても……必ずお前の所に帰ってくる。お前が望む限りずっと傍にいる。誓うよ。だから、お前はありのまま生きればいい。俺はどんなお前でも受け入れて味方になる」
「……ダメだよ、私本当はすごく力強いんだよ。紅雄くん、大怪我しちゃう」
「言っただろ、大怪我したって絶対に戻ってくる。人間のしつこさ舐めんなよ。
そりゃお前が俺の事嫌いになったとかなら、潔く身を引くけど」
紅雄を嫌いになるなんて、一生ありえない。
嘉帆は既に確信していた。
思えば嘉帆は、彼から嫌われてしまう事をとても恐れていた気がする。
この感情の名は分からないけれど、交流を重ねる度、それが兄や恭太郎に対する物とは違うという事だけは分かった。
「吸血、してもいい……?」
「もちろんだ」
引き寄せられるように彼のもとに歩み寄ると優しく抱き締められ、膝の上に乗せられた。
劇的に何かが変わって全て解決した訳じゃないけれど、彼の言葉でいくらか気分が楽になったのは間違いなかった。
その証拠に。
「っ…………紅雄くん、大丈夫……?いつもより多く吸血しちゃったから、」
「まだ全然余裕があるよ。だから……」
「うん?」
「飲むのは俺の血だけにして欲しい。恭太郎にも譲りたくねぇ」
「……知ってたんだ」
「ご丁寧に本人が教えてくれたからな。昔の話をとやかく言うつもりはないけど、アイツより絶対俺の血の方が美味いだろ」
紅雄の顔が苦々しく歪むのを至近距離から見つめ、嘉帆は困惑すると共に何故か胸の内から込み上げてくるものがあった。
……まるで、嫉妬してるみたい。
こんなことで喜ぶなんて絶対におかしいのに、嘉帆は頬が火照るのを誤魔化すように何度も頷いた。
「うん……うん、紅雄くんの血しか飲まない」
宣言すると、頭を撫でられた。
大きな手が嘉帆の後頭部を行き来すると頬がもっと熱くなる。
紅雄に出会えて良かったと、心からそう思えた。
それから数日後、無事終業式を終え、到来学園は冬休みに突入した。
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