クリスマス企画

□どうして
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――吸血したら、力が制御出来なくて人を傷付ける。

――吸血しなくても、付け入る隙をあたえて迷惑がかかる。


もうどうしたらいいのか分からない。


心配する赫夜を長時間かけて宥め、それでも嘉帆は登校した。


昇降口から生徒会室までの道程をとぼとぼと、だが、まるでレールの上を進んでいるかのように正確に歩む。


偶然にも今日は吸血を行う日だったが、頭がこんなにクラクラするのは血が足りないからだけじゃない。

とても気分が悪かった。

『最強の吸血鬼』と名高い赫夜のようにもっと完璧で、強ければ良かったのに。

努力は怠らなかった。なのに、体を鍛えても疲れるだけで全く身にならず、至高の吸血鬼と称賛される器と気弱で争いを好まない中身がどうしても釣り合わなかった。

考えれば考える程ズブズブと足元から沼の奥底に沈んでいくようだ。

視界が塞がれ、喉に泥が詰まって息がしづらい。


ーーどうして、私ーー……。


「よお、嘉帆」


背後から声をかけられた嘉帆は、自分が丁度生徒会室の扉に手を伸ばし、鍵を開けようとしている動作の途中だと気が付いた。

嘉帆を正気に戻した声の主に、嘉帆は慌てて「おはよう、紅雄くん」と挨拶をした。

返ってきたのは、いつも通りの少し照れたようなまぶしい笑顔だ。


月並みな喩えだが紅雄は、吸血鬼の嘉帆にとって太陽みたいな存在だ。

手の届かない遠い人で、近付き過ぎると嘉帆の方が焼け焦げてしまう。

でも、その温もりを欲してしまう。


「昨日は大変だったな。……よく寝れたか?」

「あまり……」

「やっぱり。隈が出来てるし、顔色も悪い。吸血したら少しは元気になるか?」


紅雄の口から何気なく飛び出した『吸血』という単語に、嘉帆はつい身を固くした。

鍵穴の鍵を回し、施錠を解いた嘉帆に続いて入室した紅雄はソファーに腰を下ろしながら早速ネクタイを緩め、吸血を受け入れる準備に入った。

その様子に、本能的に嘉帆の喉が渇く。

そんな欲深い自分に、まるで血潮が逆流するような不快感が沸き起こる。


「どうして私、吸血鬼に生まれちゃったんだろう」


思わず口走ってしまった嘉帆は、直後にハッとして発言を取り消そうとした。

これ以上紅雄に気を使わせたくない一心だったが、嘉帆が謝罪を口にするより早く紅雄は口を開いていた。


「俺は、お前が吸血鬼でよかったと思う」

「え、」

「だって、お前が至高の吸血鬼じゃなかったら――俺達、出会ってなかっただろ」


紅雄は無理に嘉帆を慰めようとした訳じゃなく、真実を告げただけだった。

確かに。紅雄が芳香で嘉帆が吸血鬼じゃなかったら、お互いの人生が交差することは絶対になかっただろう。

そんな分かりきった事実がどうしようもなく尊く、奇跡に思えた。

吸血鬼だから言って悪いことばかりじゃないと、紅雄に教えられたのだ。


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