クリスマス企画

□摘み取る者と守る者
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もしも男子生徒が力付くの行為に及ぼうとした場合、勝ち目はない。

そもそも、今までこんな風に絡まれた事なんてなかったので対処法も分からず固まっていると、男子生徒は「知ってるよ」と、笑い混じりに呟いた。


「吸血が足りないと、普通の女の子と変わらないんだろ……むしろそれより弱いくらい?」

「や、やめてっ触らないで」

「ああああ本っっ当に可愛いぃ!!長年の片想いがようやく実を結ぶ時がきたみたいだ!好き、好きだよ嘉帆ちゃん!」


反射的に一歩後ずさった嘉帆に、男子は興奮しきった形相で嘉帆に迫った。

『至高の吸血鬼』が誰かに助けを求めるなんて真似は絶対にしてはいけない。


――私が、自分でどうにかしなきゃ……っ。


嘉帆はケーキを足元に落とし、弾かれたように走り出した。

もつれる足で、あてもなく廊下を駆けた。

背後から狂ったような笑い声が絶える事はなく、余計に嘉帆を急き立てた。



「――嘉帆?」



それは偶然だった。

何故か手芸部の部室から出てきた紅雄と鉢合わせた嘉帆は、体力の限界から立ち止まってしまった。


「走ったのか?貧血なのにあまりムチャするなよ」

「だ……め、っ…………げて」


息切れでまともに喋る事さえままならない嘉帆の背中を、紅雄の大きな手が控えめに撫でる。

彼のその優しさにすがる事は許されない。

嘉帆はガクガクと震える足に鞭打って再び走り出そうとした。

が。男子は既に追い付いていた。


「……お前、あの時の」

「知り……合い……?」

「この前、生徒会室の前につっ立ってたヤツ」

「嘉帆ちゃんから離れろ芳香!クソ、嘉帆ちゃんが優しいからってつきまといやがって……っ」

「は?それはてめぇの方だろうが」


敵意を滲ませて睨む男子を紅雄は気丈に睨み返した。

このままだと男子の怒りの矛先が紅雄に向かってしまう。


「紅雄くん、私なら平気だから……気にしないで」


嘉帆は呼吸を整えて平静を装って紅雄に言い聞かせるが、大体の事情を察した彼にその手は通じなかった。

嘉帆を庇うように前に出た背中は、押しても引いても頑なに動かない。


「だめ、早く逃げて!巻き込めないよ!」

「俺が勝手に首突っ込んで巻き込まれたんだよ。まぁ人間の俺じゃ精々時間稼ぎぐらいしか出来ないだろうから、お前こそさっさと逃げとけよ」


怒りで我を忘れた男子が突進してくる。

紅雄の前に出ようとしたが間に合わず、嘉帆の悲鳴と男子の怒声が重なった。


次の瞬間。

廊下に人体が倒れ伏す音が響いた。


嘉帆の目の前に紅雄の背中はある。

なら、倒れたのは――。


「少し目を離している隙に随分と好き勝手してくれた様だな」


そこには、廊下に仰向けに転がった男子を見下ろす恭太郎の姿があった。

対妖怪を意識した戦闘訓練を幼少から叩き込まれている恭太郎にとって、例え力で劣ったとしてもそんじょそこらの混血など敵ではない。

現に、男子を一撃で沈めてみせた。


「一体どこから出てきたんだお前……(おせ)ぇよバカ」


軽口を叩きながらも紅雄の体から安心して力が抜けていくのが分かって、彼も緊張していたのだと知った。


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