クリスマス企画

□恭ちゃん
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昼休み。

中庭のベンチで売店で購入した菓子パンを齧りながら、紅雄は青い空にぽっかり浮かんだ雲の行く末を追っていた。

……暇だ。

到来学園のパンは美味しいが食べ飽きた味を味わう気にもならず、最後の一口を作業のように咀嚼した後嚥下した紅雄はだらりとベンチに横になった。

本当は弁当を作りたいが、祖母の手伝いをしていたので一通り家事はこなせるにも関わらず、何故か料理だけはてんで駄目なのだ。

それでもやる気だけはあったので祖母の生前何度も挑戦したが、結果は全て同じで、最終的にフライパンから火を吹き上げて天井を焦がした時の衝撃と祖母の悲鳴は今でも耳に焼き付いている。

あの時は一人でも生きていけると祖母を安心させたかったのだが、逆に心配させてしまった。


――もっと、ばあちゃんに優しくしとけばよかったな……。


いけない。

つい感傷的な気分になってしまった。

祖母は自分の死後、そんな風に思われる事をきっと望んではいない。祖母はそういう人だった。


「……嘉帆に会いに行こう」


嘉帆の存在は紅雄にとっての清涼剤だ。

傍にいるだけで癒し効果があるといっても過言ではない。

気分が沈んだ時は嘉帆と話すに限る。

ついでに授業中ずっと考えていた事を……クリスマスケーキはチョコレートケーキがいいと、伝えよう。

あと、生徒会の仕事で紅雄の出来る事があったら手伝おう。

勢いよくベンチから起き上がった紅雄は、軽い足取りで生徒会室に向かった。

そして目的地にたどり着いた紅雄だが、生徒会室の前には奇妙な男子生徒が佇んでいた。

入室する動作もなく熱心に扉を見つめていて……かなり不気味だ。


「おい、嘉帆に何か用か?」

「!……い、いや、なんでもないよ」


紅雄が訊くと、男子はそそくさとその場を後にした。

変なヤツだな。と思いつつもそれほど気にとめず、まずは扉をノックした。

……返事はない。

もしかして不在だろうか。仕事に集中し過ぎているだけの場合もあるので、まだそうとは限らない。


「俺だ。入るぞ」


暫くして一言断ってから引き戸に手をかけると、鍵はかかっていなかったようで扉はすんなりとスライドされた。


そして、紅雄の目に飛び込んできた光景は仕事机で黙々とペンを動かす嘉帆――ではなく、今正に着替え中という感じの下着姿の嘉帆だった。


シンプルなデザインのブラジャーとショーツは、透き通るような白い肌と成長途中の少女の肉体を眩しいくらいに際立たせていた。


人間というのは、あまりにも仰天すると逆に言葉が出なくなるらしい。

お互い驚いた形相のまま無言で暫く見詰めあった末、先に沈黙を破ったのは――。


「まだ着替え中だから閉めてもらっていい……?」

「ッ悪い!」


着替えのシャツを手繰り寄せて前を隠しながら嘉帆がどうにか告げると、我に返った紅雄は謝罪と共に急いで扉を閉め、ずるずるとその場にしゃがみこんで頭を抱えた。


――絶っ対に嫌われたぁ……!!


予想外だったので呆気に取られて動けなかったのもあるが、見蕩れてしまったのだ。

剥き出しの華奢な肩。柔らかそうに膨らんだ胸に薄い腹。むっちりとした尻と太腿……全てが紅雄を魅了した。

きっと嘉帆は、なんてドスケベな野郎だと幻滅したはずだ。

今すぐ消えてしまいたい!……なんて後悔しても、起こってしまった事は今更なかった事には出来ない。

許してもらえるまで死ぬ気で謝ろう。

覚悟を決めて再び紅雄が立ち上がるとほぼ同時に扉が少しだけ開き、隙間から嘉帆が顔を出した。


「もう着替え終わったから、入って」


入室した瞬間、紅雄は深々と頭を下げた。


「嘉帆、本当に悪かった!」

「わ、私こそ、鍵もかけずに着替えてたから驚かせてごめん。少し考え事してて……次からは気を付けるね」


時間差で状況を理解して顔を真っ赤にする嘉帆の安定の天使っぷりに感激しつつ、紅雄は顔を上げて嘉帆と対面した。

直後、思わず首を傾げそうになった。


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