クリスマス企画
□芳香と吸血鬼
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嘉帆は到来学園の生徒会長を務めている。
本人の意思ではない。
周囲に押し上げられ、仕方なく生徒会長の椅子に座っていた。
生徒会の他の役員はまだ集まっておらず――というか、立候補する者があまりにも多過ぎてなかなか決まらないらしく――全ての職務を彼女一人だけでこなしているのが現状だ。
なので、生徒会室はほぼ嘉帆の私室と化していて、吸血はいつもそこで隠れるように行っていた。
「噛むね」
来客用のソファーに座った紅雄と向かい合わせになるように跨がった嘉帆は申し訳なさそうに眉を下げ、目の前の健康的な太い首にかぶりついた。
肌を突き破る痛みに紅雄がかすかに息を呑む。
負担を最小限にする注射針で採血するのとは違って、力任せに尖った牙で噛むのだからかなり痛いはずだ。
溢れ出る血を嘉帆が少しずつ舐めとっている間、それでも紅雄はずっと嘉帆の頭を撫でてくれていた。
「ふっ…………はぁ…………ありがとう。もう大丈夫だから、すぐ吸血痕にするね」
「いつも疑問に思うんだけど、本当にこれだけの吸血で足りるのか?」
「うん。あまり飲み過ぎちゃうと力がすごく強くなっちゃうから、これぐらいが丁度いいの」
吸血の頻度は大体週に一回程度で、量は喉を潤す少量のみ。
嘉帆に血を提供して八ヶ月以上は経つが、彼女は常に人間でいう貧血状態だった。
万全の状態の吸血鬼は学園の誰よりも強いらしいが、紅雄の知っている嘉帆は精々平均……もしくはそれ以下の腕力しかないか弱い女の子だ。
俺が守らなければ。と、いつも思っていた。
それから嘉帆はすぐ吸血痕を刻むと、首に噛みつきやすいように外していた紅雄のシャツのボタンを元に戻し、ゆるめていたネクタイも結び直した。
「苦しくない?」
「いや、これくらいでいい」
まるで夫婦みたいで紅雄は毎回行われるこのやり取りが好きだった。
こうしていると『至高の吸血鬼』なんて肩書きが嘘みたいだ。
元々嘉帆は人の上に立つより、尽くす方が好きなのだ。
「そういえば、そろそろ冬休みだな。今日調子いいから、これから採血して保存しとくか?夏休みの時みてぇに蓄えとかねぇといけねぇだろ」
「あ……そのこと、なんだけど」
長期間の休みの場合、吸血のためだけに呼び出すのは気の毒なので、鮮度は落ちるが紅雄の血をあらかじめ保存してそれを吸血するように決めていたのだが、何か提案があるらしい。
紅雄としては、休みの間でもどうにかして嘉帆と会える口実が欲しいので、やっぱり冷凍品より直接がいいから毎日会いに来いと言われても願ったり叶ったりだ。
期待して次の言葉を待っていると。
「冬休みの十二月二十五日……クリスマスなんだけど、予定空いてる……かな。よかったら一緒に、生徒会室で過ごさない……?それで、その時に吸血もしたいなって思って……」
想像以上にすごい変化球が投げ込まれた。
「あ、あのね、変な下心があるとかじゃなくて……!先約があったり嫌だったりしたら断っても全然問題ないから…………というか、どう考えても、や、やっぱり迷惑だったよね、今のはなかったことに……」
「いや!すっげぇ暇だよ!!寧ろ予定があってもお前の方を優先するし!」
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