おみくじ
□吉
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ショッピングモールで買い物中。
段差のない平坦な場所でいきなり躓いた小さな嘉帆の体を、同行していた恭太郎が咄嗟に支えた。
「怪我は無いか?」
「っ何ともないです」
彼がいたお陰でどうにか転倒は免れたが、原因は履いていたミュールの右足の踵が根本から折れてしまったからだ。
一足くらい可愛い靴が欲しいと、かなり前に購入した古い物だったから仕方がないが、これ以上の歩行は不可能なためどうするべきか嘉帆が考えている内に恭太郎によって近くのベンチに誘導された。
「此処に座って暫く待っていてくれるか」
「え、あ、はい」
流されるまま返事をすると優しく頭を撫でられ、恭太郎は他の買い物客達を器用に避けながら駆け足でどこかに行ってしまった。
彼の目的がよく分からないが言われたので待つ事にした。
退屈で、何となく足をぶらぶら揺らしていると。
十五分くらい経って、恭太郎は戻ってきた。脇に箱を抱えている。
「済まない。待たせたな」
その箱の形状からその中に何が入っているのかを察し、嘉帆は恐縮した。彼がわざわざ買いに走ってくれたのに気が付かなかった自分の鈍さが情けない。
「すみません。おいくらでしたか?」
「これは俺から嘉帆嬢へのプレゼントだから気にするな」
「え?でも……そんな……――っこ、古町さん、自分で履けるので!」
人目がある中でズボンが汚れるのも構わず目の前で恭太郎が跪く。
嘉帆は仰天して慌てて制止するが、構わず彼は壊れたミュールを脱がし、箱から取り出したリボンのついたピンクのパンプスを小さな足に嵌め込んだ。
「ピッタリだな。思った通り、君に良く似合っている」
まるで王子様の様な彼の振る舞いに戸惑うが、更にもう片足も同じようにされた。
物凄く可愛い靴だ。でも、やはり頂けないと申し出ようとしたが。
見下ろした彼があまりにも満足そうに微笑んでいるので……嘉帆は素直にお礼を口にした。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
どこか得意気な恭太郎に促されて立ち上がると、心なしか軽い足取りで彼との買い物を再開した。
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